働きかたNEXT 古き慣習は打ち破れ 2015/08/31 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の特集面にある「働きかたNEXT 古き慣習は打ち破れ」です。





 グローバル化や人口減、定年延長など、日本人の働き方を巡る環境が様変わりしている。これからの日本を支える若者が活躍し、成長できる社会にするにはどうすべきか。経営者や教育者、識者など各界の専門家に聞いた。(1面参照)

生産性向上はトップ次第 ダイキン工業会長 井上礼之氏

 日本には資質のある優秀な若者がたくさんいる。だがモノカルチャーの日本企業に就職すると、5年ほどで組織の風土に染まってしまう。先輩の思考や行動パターンが知らず知らずのうちに身につく。好奇心が旺盛で行動力のある若い人材が失敗を恐れ、新しいことに挑戦しなくなるのは20代後半ぐらいからだ。

 20代はキャリア形成で重要な時期だ。責任ある仕事を徐々に任され、失敗しながら成長していく。仕事の面白さも覚え、自信をつけていく。発想が柔軟な20代に企業側がどんな仕事を与えられるか。世界で日本企業が勝ち抜くには、20代の育て方を変えなければならない。

 ダイキンは入社2~5年目ぐらいの若手から資質があると見込んだ社員を年10人前後選び、幹部候補者として育成するプログラムを導入した。

 一人ひとりに「ミャンマーに進出する。どんな販売網を構築すべきか」などの課題を与え、海外に派遣して戦略を提出させる。指揮命令は配属先の上司ではなく、会長と社長だ。資格や賃金は同期入社の社員と差を付けず、修羅場で経験を積ませる。賛否両論あったが、育成は30代になってからでは遅いと判断した。

 経済社会がこれだけ構造変化しているのに、従来のように一律の人事マネジメントで人材を育てるのは限界がある。かといって年功色が濃い人事制度を廃止し、成果型の人事制度に移行してもうまくいかない。既存の人事制度を残し、必要に応じて特定の人材だけを「例外管理」で育てる複数の道を用意する。この方が日本ではうまくいく。

 日本企業が世界で戦うには労働生産性を高めねばならない。ダイキンはいち早く裁量労働制を導入してきた。狙いは社員を職場から開放し考えてもらうためだ。外に出たほうが新しいことを思いつく。裁量労働でも深夜や休日に働いた場合はちゃんと手当を出す。裁量労働制を経費削減の手段にしては絶対にダメだ。

 ホワイトカラーの生産性を上げられるかはリーダー次第だ。欧米では仕事の割り切りが徹底している。経営陣が「今会社に必要だ」というものにだけ時間と労力をかける。

 日本は何でもやらせすぎる。一流の戦略を作っても時間がかかりすぎ、商機を逃しては意味がない。「二流の戦略、一流の実行力」でいい。これを徹底すれば間接部門は減らせるし、生産性も上がる。走りながら柔軟な発想で戦略を修正していく。それぐらいの勢いで挑まなければ、世界の戦いには勝てない。

 いのうえ・のりゆき 1957年同志社大卒、大阪金属工業(現ダイキン工業)入社。94年社長。2002年会長兼CEO、14年から現職。人材の力を引き出す「人を基軸」にした経営を貫く。80歳。

「上司の都合」押しつけるな 一橋大大学院教授 クリスティーナ・アメージャン氏

 大学時代の師、エズラ・ボーゲル氏(「ジャパン・アズ・ナンバーワン」著者)の勧めで1981年に来日して以来、様々な日本企業の働き方を見てきたが、外国人には異様に映るものが多々ある。いずれも日本の労働生産性が低い要因だと考えている。

 例えば、「PDCA(計画・実行・評価・改善)」や「ホウレンソウ(報告・連絡・相談)」。日本企業はこの2つが大好きだ。重要な内容ならわかるが、重要でないものまで同じ労力や時間をかける職場が多い。上司が安心のため部下にそれを求め、こまめにやる部下を評価しがちだ。

 討論会などで経営者が使うパワーポイント資料にも驚く。こんな情報満載で緻密な資料を作るのに、一体何人の社員の労力と時間を費やしたのか。新製品発表会のプレゼンテーションさながらに動画付きの凝ったものもある。

 強弱をつけず、すべて念入りに取り組むのは日本企業の弱い点だ。欧米では手掛ける案件に応じて、強弱をつけて働く。強弱をつけずに仕事をする社員も、部下にそうさせる上司も評価されない。

 管理職の責任領域も曖昧だ。象徴が電子メールの「cc(カーボン・コピー)」送信。日本では同じメールを複数の人に同時に送るccメール愛用者が多い。「その話、聞いていない」と後で責められないための責任回避策か。大量に届くccメールを読むだけでも時間がかかる。

 社内で許可を取るために複数の管理職に判子をもらう社員の姿も目にする。外国人の目には「スタンプ・ラリーか?」と映る。管理職の責任領域を明確にすれば、状況は改善するはずだ。

 日本企業は幹部候補の選抜が欧米に比べて遅い。高度成長期は同じ価値観の社員が一丸となって長時間労働すれば競争力を高められた。だが今は違う。ナレッジ・ワーカーが異なるアイデアを出し、イノベーションを起こす組織でないと競争に勝てない。資質のある若者が日本特有の企業風土や働き方に染まらないうちに次代を担うリーダーに育てていかなければならない。

 語学力にたけ、多様な文化的背景を持つ外国人を新卒採用する日本企業が増えているが、3年ほどで辞める例も多い。昇進が遅く「先が読めない」という声が多い。せっかく採用した人材を失うのは企業にとって損失だ。キャリア形成の早い段階に醍醐味を味わえる仕事を与え、経験を積ませる取り組みが必要だ。

(井上、アメージャン両氏の聞き手は編集委員 阿部奈美)

 Christina Ahmadjian 1981年米ハーバード大卒。米コロンビア大経営大学院助教授などを経て2012年4月から現職。三菱重工業、日本取引所グループの社外取締役を兼務。56歳。

「出る杭」伸ばす目利き必要 開成中学・高校校長 柳沢幸雄氏

 米ハーバード大でも東大でも新入生を見てきたが、日本の高校生は世界一優秀だ。それが大学入学以降、成長の勾配が米国より緩やかになり、40歳の頃には逆転されてしまう。原因は「出る杭(くい)」を打つ日本の企業文化だ。

 米国は加点主義だから何も発言しないと0点。だから自分の立場を鮮明にして主張する訓練を受ける。発言して行動を起こせば間違うことも多いが、そこから学ぶ。それが米国の若者の行動原理だ。

 一方、日本企業の評価は減点法。一流大学を出て一流企業に入った時は百点満点だが、失敗をする度に減点されていく。新入社員は3年間は会議で口を利かないのが不文律といった話も聞く。就職を控えた大学生にはそうした企業の文化が伝わり、「空気を読む」ことを覚えてしまう。

 開成でも最近は海外の大学に進学する卒業生が増えているが、日本での就職活動は勧めない。加点主義の行動形態を身につけた若者は日本で「浮く」。日系なら、現地で直接求人するような企業でないとミスマッチが起きる。

 彼らが十数年後、経験を買われて日本企業に迎えられれば、「日本語と異文化に精通した専門家」として活躍できるだろう。見方を変えれば、日本企業はグローバルな競争力を持つ若手人材を育成できていないということだ。

 学歴主義、終身雇用、年功序列の三位一体モデルはかつて大成功を収めたが、すでに崩壊しつつある。過去の成功体験を持つ上の世代から若手に取って代わっていかなければ、企業はつぶれていく。

 今必要なのは「目利き」の存在ではないか。かつては松下幸之助氏などの名経営者が若手にチャレンジさせ、駄目だったときには止める勇気があった。佐治敬三氏の「やってみなはれ」の精神だ。最近はリスク管理が厳しすぎる。

 開成の卒業生を含め、若者の中には三位一体モデルに見切りを付けて起業に挑む人も多いから、日本の将来には絶望していない。だが、上の世代の目利きが応援し、こうした若者の動きを速めていかなければならない。

(聞き手は木寺もも子)

 やなぎさわ・ゆきお 米ハーバード大准教授・併任教授、東大教授などを経て、2011年から母校の開成中学・高校校長。専門は環境工学。68歳。

「キャリア形成」自分で描く NPO法人フローレンス代表理事 駒崎弘樹氏

 若い人の働き方は二極化している。安定のため大企業の正社員志向が根強い一方、私のように起業をする人が10年前に比べて一般的になった。

 私が在学中、優秀な学生は米大手投資銀行など給与が高い人気企業を目指した。最近は大企業からNPOに転職する人が多く、社会問題に取り組むソーシャルビジネスが人気だ。フローレンスは本部に約80人の従業員がいるが、採用コストはほぼゼロ。処遇は下がるが、大企業で夜中まで働くより定時に帰ってやりがいがあるほうがいいと、若者の価値観が変わっている。

 ワークライフバランスへの意識も高まった。「ブラック企業」という言葉が広がり、大手居酒屋チェーンは業績が悪化した。かつて労働環境の悪さは乗り越えるべき労働者側の問題だったが、今は企業側が悪いというパラダイムシフトが起きた。労働人口が減る中で、貴重な働き手を食い潰す企業は採用競争に負け、市場から退出を迫られる。

 男性はもっと家族と過ごすべきだ。自殺や非行といった問題は、子どもが発するシグナルに大人が気付かないから。平日に子どもの寝顔しか見ないような人は家庭内の問題を放置しているとしか思えない。長時間労働で会社に尽くして出世をするけれど、家庭は崩壊している。漫画「課長島耕作」のような昭和の価値観は終わらせるべきだ。

 小学校に入学した子どもの65%が、今は存在していない職業に就くという米国の研究結果がある。日本でも多くの仕事は20年後には無くなるだろう。公認会計士になっても人工知能(AI)に取って代わるかもしれない。キャリア形成は従来の「○○になる」ではだめだ。学び続けることが大事で、時代のニーズに合わせて自らの技能をアップデートしなくてはならない。

 これまでは会社が求める働き方に従っていれば良かった。だが企業は自分より短命の可能性がある。定時に帰って毎日プログラミングの勉強をするなど個人の責任に委ねられる。これからは自分のワークスタイルを自らデザインしていく時代となる。

(聞き手は阿曽村雄太)

 こまざき・ひろき 2004年慶応義塾大総合政策卒。在学中にITベンチャーの経営に携わる。04年病児保育事業のNPO法人設立。35歳。



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