内閣官房の研究(下)「歴史」摩擦の芽を摘む根本解決なお描けず 2017/ 8/17 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の政治面にある「内閣官房の研究(下)「歴史」摩擦の芽を摘む根本解決なお描けず」です。





 6月30日、米南部ジョージア州のブルックヘブン市。市内の公園で、地元の韓国系団体が寄贈した従軍慰安婦像の除幕式が開かれた。外交担当の内閣官房副長官補室の指揮の下、在アトランタ日本総領事館が地元政府などに設置撤回を強く働きかけたが防げなかった。

米ジョージア州ブルックヘブンに設置された慰安婦像(6月30日)=共同

中韓と宣伝戦

 同市の話はほんの一例にすぎない。日本は今、中国や韓国と、世界中で歴史問題を巡る宣伝戦を繰り広げている。

 「市の公園に慰安婦像を設置する」。2016年秋、ドイツ南西部のフライブルク市長が突然発表したときには、副長官補室がすぐに火消しに動き設置を阻止した。日本に気づかれぬよう同市と姉妹都市提携する韓国・水原市が動いていた。

 3人いる副長官補のうち外交担当の兼原信克副長官補の下では、外交・安全保障政策を立案する国家安全保障局とは違い、他国との摩擦など省庁横断の案件を扱う。このときはフライブルク市側に事業を中断するよう促す資料を至急準備し、駐ドイツ大使館員らに説得にあたらせた。

 以前は「請求権の問題は法的に解決済みだ」などと日本の立場を主張するばかりで、かたくなな態度が逆に相手国の不信を招いた。最近は「あなたの愛する自治体が政治利用されているんですよ。良いのですか」などと相手が説得を受け入れやすい言いぶりまで副長官補室が細かく指示する。

 フライブルク市側は日本側の説明に「すべての女性の尊厳のためだと聞いていた。歴史問題が絡んでいるとは思わなかった」と応じ、像設置の中断を決めた。米ブルックヘブン市では韓国系住民の政治力が強く、阻止はかなわなかった。

 歴史問題は第2次安倍政権になって重視するようになった。中国が申請した「南京大虐殺の記録」資料が、15年に国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界記憶遺産に登録されたのは痛手だった。首相も外務省幹部に「なぜ気づかなかったのか」と怒りをぶつけた。

 「国際機関で働く日本人がみな、必ずしも歴史問題に詳しいわけではなく、意識が及ばなかった」と外務省幹部は振り返る。世界中に大使館がありながら、中韓の宣伝戦が野放しにされてきたのも同じ側面がある。

 反省を踏まえ副長官補室は、世界各地の大使館に歴史問題重視の方針を伝達。摩擦の芽をいち早く摘むべく、情報収集を強化するよう指示した。

 中韓両国の場合、海外での宣伝戦を担うのは各地に転じた移民らで数は増えるばかり。一方、日本は海外への留学生が減り、在米日本人でさえ少なくなってきている。

本来は外務省

 「顔の見えない日本」に歯止めを――。内閣官房国際広報室は、在日米軍基地での勤務経験がある米国人を組織化し、交流を強化する考えだ。海外で親日家ネットワークをつくり、歴史問題などで日本に不利な動きがあれば、いち早く気づく仕組みづくりといえる。

 状況は「いたちごっこ」(副長官補室)だ。最近では、国際連合人権理事会から任命された国連の特別報告者らに中韓が積極的に接触し、日本を批判する情報を伝えているという。

 中韓との摩擦への対応は本来、外務省の担当部局の仕事だ。だが外務省幹部は「担当者は目の前の相手との協調を優先しがちだ」と明かす。摩擦対処の役割を副長官補室に移したことで、主張すべきことはしながら良い関係を築く外交はしやすくなった。根本的な摩擦をどう解消するか。対症療法を超えるシナリオはまだ描けていない。

 島田学、地曳航也、田島如生、山崎純が担当しました。



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