地をはう物価うつむく中銀 2018/06/22 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の「地をはう物価うつむく中銀」です。





【ベルリン=石川潤】物価はなぜ上がらないのか――。ポルトガルのシントラで20日まで開かれた欧州中央銀行(ECB)主催の経済シンポジウムでは、日米欧豪の中央銀行トップが、先進国に共通する「上がらぬ物価」の理由を話し合った。労働生産性の伸び悩みや電子商取引の拡大、経済のグローバル化……。経済の様々な構造変化を指摘する意見が相次いだものの、金融政策としての処方箋を見いだすには至らなかった。

FRB・パウエル氏「労働生産性の伸び悩み」

「物価上昇が当面、政策目標を下回ることを受け入れなければならない」(オーストラリア準備銀行のロウ総裁)

「物価上昇が当面、政策目標を下回ることを受け入れなければならない」

経済学の教科書にある、経済が成長して失業率が下がれば物価が上がる原則(フィリップス曲線)が通用しなくなっているのはなぜなのか。中銀トップの議論は、先進国に共通する低インフレの分析と対応に集中した。

物価への影響が大きい賃金上昇が鈍いことが原因という点で、参加者の認識は重なり合う。米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は賃金が上がりにくい理由として「生産性の伸びの低さ」を挙げた。

日米独の時間あたりの労働生産性の伸びは1990年代ごろに2~3%程度あったが、2010年代は1%程度に下がった。経済が成熟し、かつての自動車や飛行機、インターネットといった画期的な技術革新も生まれなくなった。働いて得られる成果(付加価値)が高まらないため、賃金も上がりにくい。

日銀・黒田氏「終身雇用やデフレ心理」

ECBのドラギ総裁は、労働組合の組織率の低下や、労働者が賃上げよりも雇用維持を優先していることなども理由に挙げた。日銀の黒田東彦総裁は、終身雇用の日本では労働市場が逼迫しても賃金が上がりにくい事情を説明。「根強いデフレ心理」も指摘した。

「賃上げの加速が機械的に物価上昇につながるわけではない」(ECBのドラギ総裁)

「賃上げの加速が機械的に物価上昇につながるわけではない」

シンポジウムでは、仮に賃金の上昇がもっと進んだとしても、それで物価が上がるのか、中銀トップに確信がないことも浮き彫りになった。

本来なら労働力の不足が大きくなれば奪い合いが起こり、賃金、物価にも影響が広がるはずだ。パウエル議長によると、米国では1960年代後半に失業率が4%を切り、物価上昇率が70年代にかけて5%程度まで上がったことがある。

ECB・ドラギ氏「グローバル化・ネット通販」

ただ、人手不足が深刻なドイツなどでは賃金が上がり始めているが、消費者物価上昇率はエネルギーなどを除くベースで1%程度で目標(2%近く)に届かない。

はっきりとした証拠は出そろっていないが、グローバル化やインターネット通販などの「中央銀行の手が及ばない構造要因」(ドラギ総裁)が企業に値上げをためらわせている可能性もある。

パウエル氏は今は教育水準の向上などで完全雇用をもたらす失業率の水準が下がっていると説明。このため「労働市場が過度に引き締まっているわけではない」という。

日本でも日銀には過去の経験則から「失業率が3%を下回れば、2%に向けて物価に上昇圧力がかかる」との見方があった。だが17年から失業率が3%を割り込んでも物価の伸びは鈍いままだ。

「過度のインフレを容認するような政策は取らない」(FRBのパウエル議長)

「過度のインフレを容認するような政策は取らない」

上がらぬ物価に対して中銀はどんな手を打つべきか。もともと金融政策はインフレ抑制に効果はあってもデフレへの効果を疑問視する声もある。

シンポジウムではパウエル議長から、過度の金融緩和でむりやりインフレをつくり出そうとすることに否定的な声が漏れた。政策目標以上の物価上昇を容認するような政策は資産バブルや財政規律の緩みといった副作用ばかりを生みかねない。

FRBは15年から利上げを始め、ECBも量的緩和の年内終了を決めた。物価上昇が鈍いのでペースは緩やかだが、金融政策の正常化へ動いている。物価上昇が最も鈍く、2%目標の達成を掲げて異次元緩和を続ける日本と温度差がにじんだ。

物価を上げる処方箋を見いだせない中で、中銀総裁からは米国の保護主義で世界が貿易戦争の様相を強めていることへの警戒が表明された。「投資、雇用、意思決定を延期する動きを聞いている」(パウエル氏)、「楽観できる根拠はない」(ドラギ氏)。各国の中銀トップが米トランプ政権の動きに懸念を募らせる背後には、低インフレの危うい状況を抜け出せない中銀自身へのいらだちも見え隠れする。



コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です