地球回覧 小国にもEU懐疑の波 2015/06/21 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の日曜に考える面にある「地球回覧 小国にもEU懐疑の波」です。

移民を多く受け入れ、何と、170か国以上もの国籍の外国人が集うルクセンブルク。そんな移民先進国でも国政選挙への外国人の投票は認められませんでした。





 ドイツ、フランス、ベルギーの3国にはさまれた小国のルクセンブルクは欧州連合(EU)の「ふるさと」だともいわれる。EUの源である欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)が初めて本部を置いた国だ。ECSCの設立に尽力した元仏外相シューマンの出身地でもある。欧州統合に懐疑的な政党が各国で支持を集めるなか、7月1日から半年は輪番制の議長国として、EUの立て直しを託される。

ECSC設立当初の本部があった建物(ルクセンブルク)

 「外国人に寛容な国だと思っていたのに」。ルクセンブルクで15年近く暮らすオランダ国籍のアレックス・ファン・へーメルトさん(46)は肩を落とした。6月上旬の国民投票で、ルクセンブルクに10年以上住む外国人に国政の選挙権を与えるという改革案の是非が問われたが、反対多数で否決されたからだ。実は約56万人にのぼるルクセンブルクの人口のうち5割近くを外国籍の人が占める。ヘーメルトさんはその一人だ。

 面積は神奈川県ほど。そこで毎日を過ごす外国人の出身国は170カ国以上に達する。ポルトガル(全外国人の16%)を筆頭にフランス(7%)、イタリア(4%)などと続く。地方選挙では投票できるが、国政選挙では意思を示せない。

 こんな現状を「民主主義の正当性が問われる」と問題視し、国民投票をようやく実現させたのが、ベッテル首相率いるリベラル色の濃い連立政権だ。2013年に34年ぶりの政権交代で誕生した。首相は「民主主義と多様性に賛成票を」と国民に広く呼び掛け、産業界の大勢も支持した。成功すれば、外国人に国政選挙権を全面的に与える初めてのEU加盟国になるはずだった。しかし、結果的に投票した有権者の8割が反対する「惨敗」となった。

 ルクセンブルクはEUのなかでも人口に占める外国人の比率が高い国だが、移民排斥のような摩擦は少ない。それでも国民の心の奥底には外国人への警戒感が芽生えているようだ。金融危機や債務危機を経て、欧州の政界で台頭してきた「EU(統合)懐疑派」の広がりと無関係ではない。

 EU懐疑派がやり玉にあげるのは域内で人の移動の自由を認めた「シェンゲン協定」だ。1985年に締結され、EUが旧共産圏に広がるなか、多数の移民を労働者として西欧に送る法的根拠になってきた。だが、多くの西欧諸国で景気が盛り上がらなくなると、移民は労働力不足を解消する救世主でなく、有権者から職を奪う「邪魔者」とみなされるようになった。

 国民戦線(仏)、五つ星運動(イタリア)、英国独立党(英)――EU主要国では過度な移民の受け入れを拒み、欧州統合に背を向けるポピュリズム(大衆迎合主義)政党への支持が高まっている。

 5月上旬の英総選挙では与党・保守党を率いるキャメロン首相が「EU離脱の是非を問う国民投票を17年末までに実施する」と公約し、下馬評を覆して勝利した。ところがキャメロン氏の本音はEU残留希望だといわれる。信条に反して国民投票を準備するつらい立場に追い込まれている。

 だからこそルクセンブルクで外国人の参政権拡大が認められれば「統合推進派がEU懐疑派に反撃する礎になるはずだった」。EUの執行機関である欧州委員会のスタッフは、こう話して否決の現実を悔やむ。

 「欧州は1日にして成らず」。ECSC設立につながった1950年のシューマン宣言は説く。目前の課題に結束して対応することが欧州の統合を深めるというわけだ。国民投票の失敗で出ばなをくじかれた格好だが、ルクセンブルクの小さな背中は当面、欧州統合の行方という重荷を負う。

(ブリュッセル=森本学)

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