増税再延期を問う(下) 「経済最優先」の旗は本物か 2016/06/04 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の1面にある「増税再延期を問う(下) 「経済最優先」の旗は本物か」です。





 消費増税の再延期を決め、安倍政権の幹部には達成感が漂う。「景気の先行きを心配する経営者らの声に応えることができた」。だが社会保障制度などへの国民の将来不安には、どう応えていくつもりだろうか。

 安倍晋三首相が2度目の増税延期に動く過程で、与党議員の関心は経済財政政策よりむしろ選挙戦略に向けられた。

 「首相が増税延期の表明とセットで衆院を解散する噂がある。7月は衆参同日選になる」。1月初旬に通常国会が召集されると、与野党でささやきが一気に広がった。

 首相は2014年秋に消費税率の10%への引き上げを17年4月まで1年半延期すると表明し、衆院解散に打って出て大勝した。同日選は「二匹目のどじょう」を狙う構想だと受け止められた。

 だが増税を再延期する今回の決断はいくつかの矛盾をはらんでいる。

 首相は1日の記者会見で有効求人倍率や賃上げなどのデータをあげ「アベノミクスは順調だ」と言い切った。増税延期の主な理由は「中国など新興国や途上国を中心とする世界経済の大きなリスク」と説明した。野党からの失政批判に反論するため、海外に責任転嫁した印象がぬぐえない。

 衆院解散・総選挙を最終的に見送ったのは「参院選単独でも与党は勝てる」との見立てに加え、4月に熊本地震が起きた影響が大きい。

 同日選の可能性をぎりぎりまで探った結果として与野党は浮足だち、環太平洋経済連携協定(TPP)の承認案や雇用の規制改革を含む労働基準法改正案などの成立が難しくなった。

 首相が重要な政策課題について自らの責任で判断し、指導力を発揮するのは重要である。しかし国会の会期末になって増税延期を表明し、与党内の調整や国会審議を軽視して選挙になだれ込む進め方は強権的だといわれても仕方ない。

 増税の再延期により12年の民主、自民、公明3党による「社会保障と税の一体改革」の合意はさらに空洞化する。

 新たに設定した19年10月の税率10%への引き上げは、18年9月末の安倍自民党総裁の任期切れより先になる。消費増税の方針を誰が引き継ぐのかは極めて不明確だ。

 7月の参院選は3年半を経た安倍政権の経済運営への評価が大きな争点となる。アベノミクスは円高是正や株高で日本経済を立て直す時間をもたらしたが、まだ十分な成長力の底上げにはつながっていない。

 首相は「経済最優先」の旗を掲げてきた。だが増税先送りだけで力強い個人消費や設備投資が戻るわけではない。「安倍1強」といわれる政治資産を何のために使うのかが問われている。政策の優先順位を明確にし、成長戦略や社会保障改革に本腰を入れるべきだ。

 民進党は増税延期を容認する一方で、社会保障の充実策は予定通り実施するよう訴える。2年間の財源は赤字国債の発行でまかなうという。

 成長力が鈍化して難しい課題が増えた先進国では、痛みを伴う政策を避け、大衆に迎合する政治の空気が強まっている。日本もポピュリズムのわなに落ちる懸念がないとは言い切れない。

 今回の参院選は18歳と19歳が新たに選挙権を得る。与野党は「次の世代」にどういう日本を引き継ぐのかという具体案をこれまで以上に積極的に競い合ってほしい。

(編集委員 坂本英二)



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