増税再延期を問う(中) 民力高める工夫はいつ 2016/06/03 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の1面にある「増税再延期を問う(中) 民力高める工夫はいつ」です。





 「風がやんで等身大の姿に戻った」。先月、2017年3月期に4割もの営業減益になると発表したトヨタ自動車の豊田章男社長は記者会見でこう語った。

 3年半にわたるアベノミクス。金融緩和に伴う円安の進行は企業活動に「追い風参考記録」(豊田氏)ともいわれる特需をもたらした。

 政府は法人税の実効税率も下げ、産業界が窮状を訴えた「6重苦」はかなり改善した。だが、アベノミクスは企業の創意工夫を生かす規制緩和や構造改革の勢いが不十分でもあった。

 企業の資本効率を示す自己資本利益率(ROE)。安倍晋三政権になる直前の12年6月末は上場企業平均(金融除く株式時価総額で上位1千社)が5%弱にとどまっていたが、15年12月末には政府が「最低ライン」と言及した8%弱に改善した。だが欧米企業にはなお見劣りし「上昇分は円安と過去3年間の法人実効税率の引き下げ要因が大きかった」とSMBC日興証券の圷正嗣株式ストラテジストは指摘する。

 伸び悩んだ原因は何か。同社の分析によれば、「人手不足で人件費が高止まりし、企業再編の停滞から過当競争も続いて販管費が低下しなかったため」(同)だという。

 昨年起きた東芝の会計不祥事も元をたどれば企業再編の遅れが背景にあった。不採算事業を抱えつつ、問題解決を先送りする企業がまた現れるのは避けたい。企業が姿勢を正す一方で、再編を嫌がる会社や従業員をその気にさせるようなインセンティブを政府も考えてはどうか。「事業を売ったら法人税を減らすなどの制度があれば再編の起爆剤になる」と投資ファンド、KKRジャパンの平野博文社長はみる。

 シェアリングエコノミーや「インダストリー4.0」といわれるような新しい経済への対応もまだ足りない。

 民泊の予約仲介サイトを運営する百戦錬磨(仙台市)の橋野宜恭最高財務責任者は「政府の対応が各国に比べて遅い」と話す。民泊では規制緩和を待たずに事業を本格化している企業も少なくなく、「順法意識から政府の法整備を待つ企業が割を食っている」という。

 アプリで車の相乗りを仲介する米ウーバーテクノロジーズ。先月から自家用車で人を運ぶサービスを始めたが、認められたのは公共交通機関の空白地帯である京都府内の一部だ。タクシー業界の警戒感が強く、政府の対応もやはり後手に回る。

 民泊も相乗りも世界では成長産業だ。米国では株式未公開ながら斬新な発想で企業価値を10億ドル以上に拡大した「ユニコーン」と呼ばれる企業群が勃興している。代表例が民泊のエアビーアンドビーやウーバーであり、時価総額世界一を競うアップル、グーグルなど既存勢力を脅かす存在だ。

 日本でもそうした企業が次々に誕生し、新陳代謝を起こせば、稼ぐ力が増す。解雇規制や労働時間規制の見直しなども併せて進め、生産性の低い分野から高い分野に人材を移すような雇用改革にもつなげたい。

 日本の企業には将来の成長に向けた原資がないわけではない。上場企業の手元資金はアベノミクス前後で3割以上増え、100兆円を超えた。

 ためるだけでは経済は活性化しない。政府が必要な成長戦略や構造改革を進めたうえで企業も技術革新につながる研究・開発や消費を促す賃上げ、投資を進める。

 手をこまぬいている余裕はない。消費税率を10%に引き上げる19年10月まで40カ月。それまでに生産性を向上させ稼ぐ力を伸ばさなければ、増税への道筋は整わない。

(編集委員 中山淳史)



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