大機小機 自由からの逃走 2016/06/10 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞のマーケット総合2面にある「大機小機 自由からの逃走」です。





 地球上のあちこちで「自由からの逃走」が始まっている。

 米国のトランプ現象、フランスの極右政党「国民戦線」や民族主義政党「ドイツのための選択肢」の台頭、過激派組織「イスラム国」(IS)の脅威、英国の欧州連合(EU)離脱論。形は異なり濃淡はあるが底流にはナショナリズムや宗教、イデオロギーの高揚がある。共通しているのは純化路線の追求であり、アイデンティティーの再確認である。多くは自由の否定を伴う。

 近代化の歴史は自由を求める歴史だった。自由を束縛する古い因習や制度からの解放である。だが人間は余りの急激な自由化には対応しきれない時がある。自由化はむしろ人を不安に陥れ疎外感をもたらす。エーリッヒ・フロムやオルテガ・イ・ガセットら20世紀の思想家が指摘した、弱い大衆の「自由からの逃走」という心理である。

 グローバリゼーションとは地球規模の自由化だ。モノ、カネ、ヒトの国境を越えた自由な移動である。経済理論上、効率を高め経済発展を促す。多少の摩擦や不安をもたらしても長期的には人々の厚生を高める。

 戦後、関税貿易一般協定・国際通貨基金体制のもと、モノとカネの自由化を推進した。EUや環太平洋経済連携協定(TPP)はその延長線上にある。

 モノ、カネにヒトの自由な移動が加わり異文化の相互浸透も加速している。地球規模で新たなステージに入り、その結果、新たな不安が生まれている。

 移民や難民を非難する人は「職を奪われ格差が拡大する」と経済的不満を前面に掲げる。だが底流には強固なアイデンティティーを求める心理があり、経済合理性を超えた欲求がある。

 自由からの逃走心理はしばしば「破壊性を帯びる」(フロム)。破壊は外に向けられることもあれば自身に向かうこともある。隠れた動機はアイデンティティーの再確認である。「米国第一」と叫ぶトランプ氏の演説やヘイトスピーチ、ISの自爆テロは典型例だ。移民や難民もEUもTPPも否定の対象になる。

 多少の摩擦はあってもグローバリゼーションという自由化に耐えるのか、自由から逃走しポピュリズムが先導する熱狂の魅力にとらわれるのか。せめぎ合いはしばらく続こう。

(横ヤリ)



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