市場に広がる政治の影 不確実性が変動を増幅 本社コラムニスト 脇祐三 2016/04/25 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞のオピニオン面にある「市場に広がる政治の影 不確実性が変動を増幅 本社コラムニスト 脇祐三」です。





 世界の市場に政治の影が広がっている。増産凍結で合意する見込みだった17日の産油国会合は、サウジアラビアの権力者の意思で当日になって暗転した。英国が6月23日に実施する国民投票で、欧州連合(EU)離脱の結果になりかねない懸念から、英ポンドの相場は大幅に下がった。米国の大統領選の行方も読みづらく、これが金融や通貨政策に微妙な影響を及ぼす。

 相場には政治的なリスクが付き物だが、市場は基本的に不確実性を嫌う。政治状況の先行きが不確かになり、政治の思惑が経済政策に反映しがちだと、市場の変動も増幅しやすい。

 カタールの首都ドーハで開いた産油国会合では、サウジの事実上の最高権力者であるムハンマド・ビン・サルマン副皇太子の介入によって、事前の基本合意が覆された。いわゆる「ちゃぶ台返し」の典型だ。

 会合に参加したのは、イラン、リビア以外の石油輸出国機構(OPEC)加盟国と非OPECのロシア、オマーンなど、計18カ国。事前の各国政府間の調整で増産を6カ月間凍結する合意案ができ、前日の段階ではサウジも署名するとみられていた。ところが、当日に状況が一変する。

 英フィナンシャル・タイムズ紙の報道によると、17日午前3時ごろ、ドーハで宿泊中のヌアイミ石油鉱物資源相らサウジ代表団に、副皇太子から引き揚げを命じる電話が入ったという。

 副皇太子は、直前に経済通信社ブルームバーグのインタビューで、イランも含むすべての主要産油国が参加しない限りサウジは増産を凍結しないとの原則論を繰り返した。さらに、その気になれば日量100万バレル超の増産に踏み切ることもできると語っていた。

 サウジ代表団はドーハにとどまり、OPECの全加盟国が凍結合意に加わらなければならないという条項を入れた修正案を、ロシアなどに示した。会合に出ないイランに縛りをかける提案に、他の国々は驚いた。サウジに妥協を求める声が相次いだが、ヌアイミ石油相は「OPECの全メンバーの参加が不可欠」と繰り返すだけだったという。

 会合の暗転は、サウジの対イラン姿勢の厳しさを示す。それに加えて、サウジの石油政策が、所管する省や大臣の権限を超え、権力中枢の政治判断に左右されるようになった印象も強い。石油市場にとって、これは重要な変化だ。

 かつて原油は政治的な商品だった。1973年、第4次中東戦争に連動して当時のサウジ国王が石油禁輸を決めたように。

 原油の市場商品化が進んだ後、国営石油会社出身のヌアイミ石油相は過去20年あまり、原油供給に政治をからめない「石油の非政治化」を強調していた。2014年11月のOPEC総会で原油安を容認した時も、同石油相は「政治的な陰謀ではない。純粋にビジネスの問題だ」と断言した。

 だが、高齢のサルマン国王が昨年、即位した後、サウジの政治力学は大きく変わった。国王の子で、国防相、宮廷の長官、最高経済評議会の議長を兼ねる30歳の副皇太子に権力が集中している。17日の展開は、その権勢の大きさを示す。

 産油国会合の直後に急落した原油価格は、とりあえず下げ止まった。それでも、「権力者の一存でサウジの石油政策が動き、市場の不確実性が増した」という声は少なくない。

 いま世界が直面する大きな不安材料の一つは、英国がEUから離脱する可能性だ。昨年夏に1ポンド190円を超えていた英ポンド相場が、150円台まで下落していることが、懸念の大きさを端的に示している。

 キャメロン英首相は国民投票実施を公約し、昨年5月の総選挙を制した。当時はEU残留の結論が見込まれていたが、欧州への難民殺到やテロの拡散などの影響で内向きの心理が強まり、最近の世論調査では残留と離脱が拮抗している。

 国際通貨基金(IMF)は「英国だけでなく世界経済にとって主要なリスクだ」と指摘し、「国民投票実施が、すでに投資家にとっての不確実性をつくり出している」と説いている。

 先々週末に開かれた20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議の声明も「潜在的な英国のEU離脱ショックが、世界の経済環境を複雑にしている」と記す。

 同じG20の声明に「為替相場の過度な変動や無秩序な動きは、経済と金融の安定に悪影響を与えうることを再確認する」という一節がある。急速な円高を警戒し、市場をけん制する日本の立場に、他の国々が理解を示したように読める。だが、閉幕後の記者会見でルー米財務長官は、最近の円相場は秩序のある動きだと語った。これを材料に先週初め、円相場が上昇した。

 ルー長官の発言の背景には、米大統領選で共和党のトランプ候補が「中国、日本の為替操作」非難を繰り返し、民主党のクリントン候補も通貨安政策を批判している事情がある。大統領選の年には、米政府が有力候補の発言を意識せざるを得なくなるのだろう。

 トランプ候補は、景気に悪影響を及ぼすとして米連邦準備理事会(FRB)の追加利上げに反対し、大統領になったらイエレンFRB議長を再任しないとまで言っている。中央銀行の独立性を意に介さないような発言だ。米国の金融政策にも政治の影が迫っている。



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