怖いのは「アマゾン銀行」 2018/05/10 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の「怖いのは「アマゾン銀行」」です。





ウォール街はトランプ米大統領が掲げる金融規制の抜本的な緩和を実は望んでいない。米国でこんな観測が広がっている。議論中の法改正は中堅以下が主な対象。総じて大手への恩恵は乏しいが、現行規制の微修正が望ましいという空気すら漂う。なぜだろうか。

首都ワシントンでの渉外を担う米大手銀行の幹部は、現行規制の大半が残ることよりも「厄介なシナリオ」があると明かす。規制が激減して「IT(情報技術)企業が参入することだ」。

異業種に道狭く

昨年11月。ウォール街を震撼(しんかん)させる出来事があった。

「(IT企業が)今の金融業界よりも良いサービスを提供できたとして、それが阻まれているのなら消費者の不利益だ」。銀行監督を担う米通貨監督庁(OCC)のノレイカ長官代行(当時)は講演で語った。「アマゾン銀行の誕生か」。米メディアはアマゾン・ドット・コムの銀行業参入を巡る思惑を書き立てた。

その後就任したオッティング現長官も4月、IT企業を対象に「連邦単位で銀行業に準じた認可が必要かどうかを検討する」と発言。具体的な動きはないが、ウォール街は警戒を解けない。

米国では1999年の法律で銀行と証券の融合が解禁された際、連邦法制下では異業種による銀行免許の取得が認められなくなった。実は、日本でのセブン銀行やソニー銀行のような異業種参入の道は極めて狭い。

世界最大の小売業、ウォルマートは99年以降、4度にわたって銀行免許の取得に動いたが、金融業界の反対と規制に阻まれ、2007年に申請を取り下げた。州単位での動きも鈍い。オンライン決済のスクエアはユタ州に銀行免許を申請中だが、「棚ざらし」に遭い、認可のメドは立たない。

強固な規制は新規参入を食い止める「参入障壁」にもなる。ウォール街にとって、規制が一気に緩んで新規参入に弾みがつくくらいなら、現行規制の微調整くらいのほうが望ましいともいえる。

アマゾンは銀行業に参入したいのか。公式に表明したことはないが、金融関連のサービスを手がけているのは事実だ。

顧客基盤に強み

JPモルガン・チェースと組み、「預金に似た金融サービス」も検討しているが、銀行業への参入ではない。米証券の制度調査担当は「(免許をとって)預金を受け入れると規制の網にかかり、本業の障害にもなりかねない。そんな事態は避けたいはず」と読む。

だが、潜在力は脅威だ。「ブランド力や確立された顧客とのアクセス。アマゾンには米国の銀行業で成功を収める条件がそろう」。米コンサルティングのベイン・アンド・カンパニーは3月、こんな報告書をまとめた。

例えば、インターネット上に持つ圧倒的な顧客基盤。若年層を中心に、金融取引でも店舗よりもスマートフォンなどを好む傾向が強まる。大手銀もIT対応を急ぐが、需要をつかみ切れない。ベインの調査では、米国民の5割、18~24歳に限ると7割がIT企業の金融サービスを利用することに抵抗がなかった。

アマゾンが既存顧客の半分でも「銀行サービス」に取り込めれば、5年で7000万人を超える「預金客」を獲得できるとベインはみる。米銀3位のウェルズ・ファーゴに匹敵する「巨大銀行」が一気に誕生する。しかも実店舗が不要なので、あまり追加投資をかけずに事業を展開できる。

購買履歴の膨大なデータも武器になる。就職、結婚、出産といった人生の節目を細かく把握できるからだ。融資や住宅ローン、保険、資産運用など幅広いサービスをそろえれば、一人ひとりの事情に応じて興味を引きそうな提案を絶妙なタイミングで仕掛けられる。

規制の重みから「アマゾンは法的な銀行にはならない」(ベイン)とすれば、大手金融は事業パートナーとしての「共生」も模索できる。だが、規制の障壁が低くなり、自ら銀行業の「本丸」に乗り込むなら、書店や小売業と同様に金融業界が侵食される「アマゾン・エフェクト」が吹き荒れる未来も否定できない。

ウォール街には経営を縛る「手かせ足かせ」のはずの金融規制が、今や自らを守る「頼みの綱」に映るのかもしれない。

(ニューヨーク=大塚節雄、山下晃)



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