急がば回れの公文書管理 2018/07/01 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の「急がば回れの公文書管理」です。





米映画「ナショナル・トレジャー」は2005年に日本でも上映されて話題になった。序盤の見せ場はニコラス・ケイジ氏が演じる主人公が、ワシントンの国立公文書館からアメリカ独立宣言書を盗み出すシーンだ。立派な建物で観光拠点としてにぎわっている。

(画像:国立公文書館の施設や人員は、欧米諸国と比べてまだかなり劣っている(東京・北の丸公園))

この映画を思い出したのは歴史学者の磯田道史氏が6月に日本記者クラブで会見し、日本の公文書管理の現状を嘆いたからだ。磯田氏は「武士の家計簿」などの著作で知られる。

「日本は先進諸国と同じレベルで公文書を公開したり保存したりできるはずの国なのに、それが進むどころか後退している姿さえ見える。アジアで真っ先に近代化したが、情報公開法の制定は韓国や香港、タイの方が早い」

かなり改善してきたはずの日本の公文書管理は、いま制度の信頼性が揺らぐ状況に立ち至っている。

防衛省・自衛隊で日報の隠蔽が発覚。財務省では国有地売却に関する決裁文書の改ざんや交渉記録の廃棄が明るみに出た。公文書管理法の制定を推進した福田康夫元首相が「あり得るのかと思った」と驚くほどの失態が続いている。

政府は公文書の扱いの徹底や電子決裁への移行加速を柱とする再発防止案を近くまとめる。一連の対策は、不正を減らす一定の効果があるはずだ。

それでも日本の現状は、欧米諸国と比べればかなり遅れている。国立公文書館の職員は米国が約3000人、ドイツは700人弱、英国は約600人、フランスは約500人だ。日本は非常勤を含めても188人にとどまる。

行政情報の保存と公開は民主国家の根幹だ。東京・北の丸公園にある国立公文書館は手狭で、所蔵能力の限界が近づいている。

衆院議院運営委員会は昨年4月、国会議事堂前の庭園内に新しい公文書館を建設する方針を決めた。総床面積は最大で現在の4倍となり、展示スペースを大幅に拡充する。10年程度をかけ、憲政記念館も同時に建て替えて整備する。

与野党には公文書管理法への罰則の盛り込みを求める声もある。だが閣僚の一人は「厳しくすれば最低限の文書しか作らなくなる。公務員の意識改革こそが大事だ」と強調する。

国立公文書館の加藤丈夫館長は「文書を保存するか廃棄するかは価値判断の問題だ。手続きをいくら細かくしても、目利きがいなければ同じ事が起きる。だから専門家を育てなければならない」と訴える。

文書管理の専門家(アーキビスト)は現在30人しかおらず、新館が完成するまでに150人に増やすのが目標だ。各省への専門家の配置や公務員の研修強化も必要になる。

自民党幹部は今回の不祥事について「記録の隠蔽や焼却は旧日本軍から続くあしき伝統だ」と自嘲気味に語る。しかし欧米の列強以外で初めて本格的な立憲政治を確立した日本が、いつまでも情報公開の後進国でいいはずがない。

米国のように歴史的な文書を公開し、行政情報を利用しやすくすれば公務員の意識も高まる。いま日本の重要資料の原本は公文書館や外交史料館、国立国会図書館、宮内庁書陵部などに点在し、ほとんど常設展示されていない。

安倍政権は当面の再発防止策と並行し、急がば回れの発想で公文書の保存と公開にもっと力を入れてはどうか。近代日本の歴史資料や同盟、降伏文書などは国民だけでなく訪日外国人も見たいだろう。普段は財布のひもが固い財務省も、今回ばかりは関連予算を削りにくいに違いない。

(編集委員 坂本英二)



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