戦後70年 これからの世界 (1)日本型発展、なおモデル ハーバード大教授 アマルティア・セン氏 2015/08/06 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の1面にある「戦後70年 これからの世界 (1)日本型発展、なおモデル ハーバード大教授 アマルティア・セン氏」です。





 ――日本とアジアの戦後70年を、専門の厚生経済学の視点でどう評価しますか。

 「日本経済はとても成功した。明治時代から教育に力を入れ識字能力を高めたことが土台にある。医療保険制度も重要だ。経済を優先し後から人道的な政策が緩やかに追いつくという、欧米型の経済発展をまねしなかったのが良かった」

 「日本はアジアの経済モデルになった。韓国や台湾、香港、シンガポール、中国も続いた。市場経済のインセンティブを持ちつつ、国が教育や医療、健康保険を与える組み合わせは功績大だ」

過去と現代融合

 ――日本は低成長やデフレに悩んでいます。

 「日本の優れた経済社会モデルと、欧州のように財政を緊縮する最近までのひどい経済政策は分けてみるべきだ。安倍晋三首相が縮小均衡から方向転換したのは正しい。だが『人が中心』という価値観を変える必要はない。日本の経済や社会が崩壊するといったデマには動じるべきではない」

 ――貧困が多い途上国の現状をどうみますか。

 「途上国側の取り組みを見ると、不満は残る。中東や南アジアでは、日本が戦略の軸に選んだ『人の発展』への意識が欠けている。一方で豊かな国が途上国を十分に助けたかというと、もう少しできると思う」

 ――格差がテロの温床だとの指摘もあります。

 「格差は、テロ行為をする兵士の勧誘を後押ししている。だが背景には西洋への反発もある。(テロリストは)植民地時代の英国やフランスの野蛮さを持ち出し、暴力的な方法で報復しようとしている。最大の問題は現代化と過去の価値観を結ぶ融合の欠如。日本が成功したのは伝統を持ちつつ現代化したからだ」

 ――紛争が多い地域でも過去と現代化の融合は可能ですか。誰が指導力を発揮すべきですか。

 「指導力の問題は難しい。最後は人々が自らなすべきことだ。無人機で過激派組織『イスラム国』(IS=Islamic State)のリーダーを一人殺せば済む問題ではない」

 「これは知性への挑戦だ。ISは(戦闘員の勧誘で)ペンとインターネットが強力であることを示したが、ペンの強さは良い方向にも働く。そのためには欧米が発想を変えなくてはいけない。アジア人を『ペンよりも銃を好む二級市民』だと思わないことだ」

ユーロは失敗

 ――中印も日本モデルに向かいますか。

 「中国はその方向にある。毛沢東が教育と医療を重視していたので、それを無視し続けたインドとは違う。日本とは政治に違いはあるが、国が医療や教育を支え、市場経済のインセンティブもあるという点で共通する」

 「インドは民主主義というチャンスをしっかりとつかむのが下手だ。伝統的な格差、カースト制が恵まれた人とそうでない人を分けてしまい、左派のリーダーでも大衆を守ることはなかった」

 ――欧州の単一通貨ユーロは失敗だと主張していますね。

 「域内の為替変動の柔軟性が損なわれ、多くの国が苦しんでいる。平和のための欧州統合は重要だが、通貨の統合は必要ない。政治や財政の統合前に導入したのも失敗。(域内の対立を生み)当初の理念を達成するのはむしろ困難になった」

(聞き手はジュネーブ=原克彦)

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 Amartya Sen 所得の再分配などを分析する厚生経済学への貢献で1998年にアジア人で初のノーベル経済学賞を受賞した。インド出身。哲学者でもある。81歳



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