揺らぐ「法人税の逆説」 デジタル課税に制約 2018/3/25 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の第一面にある「揺らぐ「法人税の逆説」 デジタル課税に制約」です。





 法人税収は本当に増えるのか。米トランプ政権の法人税率引き下げを巡り、こんな議論が専門家の間で起きている。税率を下げると投資が活発になって逆に税収は増えるパラドックス(逆説)は有名だが、デジタル経済化でこの定説が揺らいでいるとの見方があるためだ。構造変化は各国の税制論議も揺さぶる。

 トランプ政権は税制抜本改革で連邦法人税率を1月から35%から21%に下げた。地方税を含む実効税率は日本やドイツ、オーストラリアを下回る水準だ。

 これに伴い米連邦議会は税収が10年で6538億ドル(約70兆円)減ると試算したが、トランプ政権は高い成長を前提にむしろ法人税収は伸び続ける見通しを予算教書に盛り込んだ。

 高めの経済成長を見込んで税収を計算するダイナミック・スコアリングと呼ぶものだが、この手法の是非が論争の的だ。かつての「逆説」が疑わしくなっているとの見方があるためだ。

■個人所得税に依存

 法人税収は企業業績や国内総生産(GDP)と連動する傾向が強く、とくに景気回復局面では繰越欠損金を解消した企業が納税を再開するため税収が伸びやすい。だが経済協力開発機構(OECD)によると直近の税収はGDPの2.9%分。リーマン危機前のピークより0.7ポイント低く、力強さがない。10年でOECD加盟国の名目GDPは44%増えたのに法人税収の伸びはわずか半分の22%。同じ期間に実効税率は3ポイント近く下がり、税収のGDP比も低下した。

 法人税率を下げても税収は増える逆相関がマクロ経済学者らの注目を集めたのは、1990~00年代初頭の欧州だ。コペンハーゲン大学(デンマーク)のピーター・ソーレンセン教授らによると、減税で起業家精神が刺激されて投資が活発になったり、様々な控除縮減などで税金のかかる範囲(課税ベース)が広がるなどして税収が上向いた。

 実際、OECD平均の07年と97年を比べると、実効税率は10ポイント近く下がったのに対し、税収はGDP比で0.8ポイント増えていた。最近はこの関係が崩れているようで、OECDは「世界で個人所得税への依存が高まっている」と分析する。

 逆説が変調を来している大きな理由が、世界経済の急激なデジタル化だ。米アップル、米アマゾン・ドット・コム、米グーグルといったインターネットの大手先端企業はデジタルの特許や知的財産権を低税率の国に移転することで、優遇税制の恩恵をフルに享受している。「価値が創出されるところと納税の場所を分離して租税負担を小さくできる」(中央大学の森信茂樹教授)

 企業が海外に統括会社を作ったり、資金をプールしたりするタックスプランニングの選択肢は飛躍的に増えている。国税庁によると、日本の16年度の法人税の申告所得は63兆4749億円と前年度比3.2%増えたのに、申告税額はなぜか1.3%減った。

 ビッグデータなどの無形資産の海外移転がさらに進むのは確実だ。税率下げで企業業績がよくなっても、税金の源泉となる財産・所得(いわゆる税源)が逃げないようにしないと税収は目減りしていくだけだ。

■課税方法見直し

 OECDは3月、企業の売上高に応じて課税するやり方や、法人税課税の根拠となる支店や工場などの恒久的施設(PE)の考え方を見直す方向性を示した。欧州連合(EU)欧州委員会も具体的な「デジタル税」の案を詰めており、このほどアルゼンチンで開いた20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議でも大きな論点になった。

 英タックス・ジャスティス・ネットワークによると、企業の利益移転によって世界で年5千億ドルほどの税源が失われている。経済学者の間では、1つの国を単位とする法人税は将来的に存続が難しくなるとの見方すら浮上している。

 「先進国の中で我が国の法人税率は最高になってしまう」。オーストラリアではトランプ減税を機に大議論になっている。社会保障と並ぶ公的コストである法人税率を高いまま放置すれば国際的な立地競争でたちまち劣後しかねない。

 各国がひたすら税率下げを競うのは不毛だ。とはいえ税率を下げなくてよいわけではない。一橋大学の佐藤主光教授は「イノベーションを促すため法人税下げは避けて通れない。消費税や社会保障と一体で税制を見直すタックスミックスの発想が重要だ」という。

 税率を下げて企業活動を刺激する一方で、税源の海外流出には歯止めをかける。こんなグローバルな協調が税制にも求められる時代になった。(木原雄士)



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