政策ズームイン 海でも崩れた日中均衡 経済に続き警備力も「逆転」 尖閣支配へ じわり侵食 2016/05/29 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の日曜に考える面にある「政策ズームイン 海でも崩れた日中均衡 経済に続き警備力も「逆転」 尖閣支配へ じわり侵食」です。





 日本の経済規模を抜き、すでにほぼ2倍にふくれ上がった中国。実はもうひとつ、日中に新たな逆転現象が起きている。海上の治安を守るための警備力だ。この変化は日本の安全保障に濃い影を落とし始めている。

 米有力シンクタンク、米戦略国際問題研究所(CSIS)が4月、ホームページに載せた分析が、日本の安全保障当局者らの目をひいた。

 尖閣諸島をめぐる攻防で、中国が将来、日本の優位に立ちかねないと警告する内容だったからだ。その根拠として、中国が監視船を猛烈な勢いで増強していることが紹介されていた。

 中国が軍事拠点を広げる南シナ海に比べると、東シナ海はかろうじて安定を保っているようにみえる。だが、水面下では深刻な事態が進んでいる。日中がもっている海上警備力がついに逆転し、どんどん差が開こうとしているのだ。

 領海や近海のパトロールは、日本では海上保安庁、中国側は海警局が担う。紛争になれば、軍事力がものをいうが、そういう危機はめったに起きない。平時にはこの海上警備力が東シナ海の秩序を大きく左右する。

 「中国は海軍力だけでなく、海警局の体制も急速に増強している。このままでは、東シナ海の力関係が中国優位に傾きかねない」

 実は、日本政府は約4年前から「逆転」の兆しに気づき、米政府にもひそかに危機感を伝えてきた。それが現実になってしまったのである。

 日中の海上警備力を比べるとき、カギをにぎるのが、中国から尖閣付近までやってこられる千トン以上の大型船の数だ。中国は詳しい統計を公表していないが、中国側の報道や資料を総合すると、2013年ごろまでは日本が優位だった。

 ところが、14年には日本54隻、中国82隻となり、日中が逆転。15年には日本62隻、中国111隻と大きく水をあけられた。16年以降はさらに差が広がる見通しだ。

 もっとも、中国海警局は南シナ海も管轄しており、すべての大型船をいつも東シナ海に置いているわけではない。それでも日中逆転の影響は、東シナ海にもおよび始めている。

 いちばん懸念されるのが、尖閣諸島への影響だ。尖閣領海にはいまでも中国監視船の侵入が続いている。

 海上保安庁の集計によると、14年以降の侵入日数は毎月、平均2~3日。12年9月の尖閣国有化後、12年と13年には月7~8日のこともあったため、これだけみると、中国の攻勢が少し、和らいだように映る。

 しかし、現場に目をこらすと、そうは言っていられない現象が起きている。複数の日本の安全保障担当者によると、尖閣に近づいてくる中国船が近年、急激に大型化しているという。

 船が大きくなれば、悪天候でも船体が揺れず、尖閣海域にとどまりやすくなる。速度も高まり、日本の巡視船の追跡からも逃れやすい。

 CSISは中国側統計として、驚くべき数字を紹介している。尖閣に接近してきた中国船の平均総トン数は14年、2200トンにとどまっていたが、15年には3200トンになったというのだ。

 海上保安庁が現在、もっている3千トン級の巡視船は17隻にとどまる。今のところ、中国監視船による危険な挑発行為は目立っていないが、“力比べ”になったら受け身に立たされかねない。

 国有化の直後、中国は大量の船を送り込むなど、尖閣に激しい揺さぶりをかけた。この結果、かえって日米の結束が強まり、14年春、オバマ大統領が尖閣への日米安保条約適用を明言するにいたった。

 「中国はこうした教訓を学び、極めて危険な挑発は手控えるようになった。その代わり、(船の大型化により)尖閣への圧力をじわりと強めていく戦術に切り替えた」

 米国防総省のブレーンはこう語る。いわば、真綿で締めるような持久戦によって、米国の介入を招かずに尖閣の実効支配を崩すねらいだ。

 中国監視船に加えて、日本側が警戒しているのが漁船の動きだ。ここにきて、尖閣領海に入り、操業する中国漁船がふえているからだ。

 いちばん目立ったのが、14年の208隻で、11年比で約26倍に激増した。15年はそれよりは少ないが、同9倍弱(70隻)にのぼっている。中国は南シナ海では漁船を事実上の海上民兵として使うケースもみられる。

 政府関係者によると、今のところ、武装した中国漁船が尖閣近海に現れた事例は報告されていないが、今後の火種になるかもしれない。

ガス田開発・海洋調査加速 中国、強気の姿勢

 中国による東シナ海での攻勢は、尖閣だけにとどまらない。東シナ海の日中中間線付近では、日本側の抗議にもかかわらず、中国によるガス田開発が加速している。こうした強気の行動も、海上警備力の逆転と無縁ではなさそうだ。

 中国は中間線付近で、採掘のための施設をすでに16基建てた。今年2月までに、このうち9つから、炎が出ていることが確認されている。

 もうひとつ、ここにきて目立っているのが、日本の排他的経済水域(EEZ)における中国の海洋調査。中国は2001年、日本のEEZで調査する際には、事前に通報する取り決めを交わした。

 ところが、海上保安庁によると、15年、事前通報なしの調査が22回にのぼり、前年の9回から急増した。とりわけ多いのが、尖閣諸島や久米島周辺などの調査だという。

 中国の真意は不明だが、海底の地質を調べ、尖閣などが中国の大陸棚上にあることを証明しようとしているとの見方がある。いざというとき潜水艦がすばやく行動できるよう、海底の地形を詳しく把握する意図もありそうだ。

両国の武力衝突 リスク大 持久戦、警備力が重要に 梁雲祥・北京大国際関係学院教授

 中国は習近平指導部になって以降、民族主義の一環として海洋進出を強めていると見られている。資源問題のほかに東シナ海では民族感情、南シナ海では海上交通路の確保という問題もある。このような状況下で中国と日本が武力対峙するのは危険が大きく、双方とも望んでいない。

 多くの中国人は中日間で軍事衝突が起きれば制御が難しいと考えている。ただ、中国の経済成長は日本よりも速いから時間は中国に味方しており、焦る必要はない。こうした戦争に至らない段階が続く中では、海上警察力が重要になるのは当然のことだ。

 中国から釣魚島(沖縄県・尖閣諸島の中国名)近海に行くのは海警局の船で海軍ではない。日本も海上保安庁で海上自衛隊ではない。双方とも自制している。釣魚島近海に行く船の数にも双方に暗黙の了解がある。日本は島への上陸を抑えるだけだし、中国も上陸はしていない。そうしなければ衝突するからだ。

 ただ、中国には日本より強くなければいけないという基本的な考え方がある。海警局が使う船には過去に退役した軍艦があり、船の総トン数や航続能力は近年めざましい成長を遂げている。すぐにではないが、いずれは隻数だけでなく全体的な性能でも日本を超えるかもしれない。

 一方、中日は偶発的な軍事衝突を防ぐための海空連絡メカニズムも協議している。必要性では一致するのに正式な署名に至らないのは、適用区域をめぐる対立があるからだろう。中国は釣魚島を含めるべきだと主張しているが、領有権問題の存在を認めたくない日本が反対している。

 もし適用区域を曖昧にできれば署名できるかもしれない。特に南シナ海情勢が緊張している時は可能性が高くなる。中国は南シナ海と東シナ海で同時に問題を抱えたくないので東シナ海を安定させようとするからだ。曖昧な規定は実際の運用段階で問題が生じる可能性があるが、日中はこれまでの政治文書や共通認識でも曖昧な処理をしてきた。

 王毅外相は4月の岸田文雄外相との会談で「中国脅威論をまき散らすな」と訴えた。域外国の日本には南シナ海の問題に関わってほしくないということだ。岸田氏は中国に自制を求めるが、中国には束縛しようとしているように映る。この問題は根本的に同じ土俵で話し合う方法がない。

(中国総局 永井央紀)

<記者の目>続く「グレーゾーン」の緊張

アジアの地政学図はどう変わっていくのか。各国の軍事力を比べるだけでは、答えは出てこない。ここでは戦争でも平時でもない、「グレーゾーン」の緊張が続くとみられるからだ。より重要になるのが、海上警備力の比較だ。今回調べてみると、中国優位が驚くべき速さで進んでいた。アジアの安定を揺らす大きな原因になりそうだ。

(編集委員 秋田浩之)



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