教育無償化を問う(下)若者の声応えきれるか大学の質確保もっと目を 2 017/11/23 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の第一面にある「教育無償化を問う(下)若者の声応えきれるか大学の質確保もっと目を」です。





 「離婚で家を出た父から養育費が届かない」「学費ローンの利息が払えない」――。早稲田、慶応義塾など大都市の有名大学がこぞって拡充する独自の給付型奨学金。申請書類には、様々な事情で学びたくても許されない若者の切実な声があふれる。島根県から上京して早大で学ぶ女子学生は「奨学金がなければここで学べなかった」と話す。

無償化には幅広い議論が必要(奨学金で大学に通う女子学生)

 家庭の経済状態によって進学機会が左右されることは大きな問題だ。大学・短大進学率は6割に迫るが、生活保護世帯に限ればわずか2割。奨学金を借りて進学しても、生活費を稼ぐためアルバイト漬けになったり、卒業後に返済で苦しんだり。そんな教え子を多数見てきた神奈川県立高校の金沢信之教諭は「今の制度では進学が人生のリスクを増やしてしまう」と高等教育の無償化論を歓迎する。

 しかし、首相のトップダウンで始まった議論は迷走気味で、政府内や与党は必ずしも一枚岩ではない。

成績は不問?

 「あり得ない! 高校教育を否定するのか」。高校教員出身の宮川典子文部科学政務官は文科省内の会議で、政府の「人生100年時代構想会議」の報告に声を荒らげた。無償化の条件に高校の成績は問わないという意見が出たからだ。「高校で勉強を頑張らなくてもいいというメッセージになりかねず、大学の質低下に拍車がかかる。スピード重視で金目の話ばかり。これは教育政策ではなく福祉政策だ」

 だが、こうした筋論は「無償化ありき」の議論の中でかき消されがちだ。自民党の人生100年時代戦略本部が22日に示した提言案で挙げた無償化の支援条件は「入学後に勉学に励むこと」だけ。これでは、成績評価が甘い日本の大学で怠学の抑止効果はほとんど期待できない。学ぶ意欲に乏しい学生が今以上にキャンパスに増え、定員割れ大学の救済につながる“二重のモラルハザード”を招く可能性さえある。

 大学にも懐疑的な声が多い。「私大が求めてきたのは国私立の格差是正。そこに突然、中身が曖昧な無償化論が出てきた」。吉岡知哉・立教大総長(日本私立大学連盟副会長)は「国が直接、授業料を私大に投入すると、国の統制が強まり、私大の独自性・自主性が損なわれないか」と懸念する。日本私立大学協会の小出秀文事務局長も「無償化の影響は大きい。やるならば高等教育のあり方を見直す議論が先だ」と言う。

国際競争で苦戦

 大学には進学機会の確保と並ぶ深刻な課題がある。21世紀の知識基盤社会は大学の競争力が国力を左右するとさえいわれるのに、日本は世界の先頭集団から脱落しつつあることだ。浜口道成・科学技術振興機構理事長は「大学の研究力を高めないと大変なことになる」と警告するが、政治の反応はいまひとつだ。

 もちろん、競争力低下の一因は大学の自己改革の遅れにあるが、厳しい国家財政下での予算削減の影響も大きい。そこに降って湧いたように現れた8千億円規模の経済支援。東京工業大の岡田哲男理学部長は「それだけの金額を使うほど無償化の優先度が高いとは思えない。もっと大学に投資すべきだ」と指摘する。

 虎の子の消費税増税分を大学に使うなら、無償化だけでなく、もっと有効な使い道はないのか。拙速な議論を避け、幅広い視野で検討することが必要だ。

 天野由輝子、山本公彦、重田俊介、伴正春、蓑輪星使、矢崎日子、編集委員 横山晋一郎が担当しました。



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