新産業創世記 「土俵」が変わる(4) ウシ「仁丹」をほお張る 異業種結ぶ特許 2016/05/21 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の1面にある「新産業創世記 「土俵」が変わる(4) ウシ「仁丹」をほお張る 異業種結ぶ特許」です。





 大阪府羽曳野市の小高い丘にある小さな牛舎。茶色いエサを勢いよくほお張るウシの姿に府の研究者、瀬山智博さん(34)は安堵した。「ウシは好き嫌いが多いが思いのほか食いつきがいい」

森下仁丹の独自技術を応用したウシ向け栄養カプセル(大阪府羽曳野市)

 ウシが飲み込んだのはただのエサではない。配合飼料には直径6ミリメートルの無数のカプセル。中身は人間の動脈硬化を抑える効果のある化合物だ。ウシの4つある胃袋は素通りして腸内ではじけ、化合物をたくさん含む牛乳が取れるようになる。瀬山さんは生活習慣病が気になる消費者向けに売れると見る。

老舗再び成長

 体内の狙った場所で溶ける不思議なカプセル。基となる技術は1893年創業の森下仁丹が開発した。外交官のロゴでおなじみの口中清涼剤「仁丹」。生薬を包み込むノウハウを生かして進化させた技術が花開く。電気自動車に使うレアメタル(希少金属)の回収、シロアリ駆除――。いずれも仁丹が技術を抱え込んでいたら思いもつかなかった用途だ。

 土俵を作ったのは、2006年から社長を務める駒村純一氏(66)だ。当時の売上高はピーク時の10分の1。「自社にこだわっていては先がない」。カプセル化の特許を公開し、協業を模索したことが老舗企業に新たな成長を呼び込んだ。

 出会うことのなかった異業種同士のかけ算が生み出す新産業。特許が触媒役を果たす。

 「ウチだけではできない商品だ」。青森県八戸市のせんべい店、味の海翁堂の店長、助川輝幸さん(53)が喜ぶ。スマートフォン(スマホ)をかざすと動画を映し出すせんべいを商品化した。せんべい表面に描いた肉眼では見えにくい特殊なコードが動画再生の起動役。技術は富士通が開発した。

 「観光PRや結婚式の引き出物に人気が出そう」と期待する助川さんにこの技術を紹介したのは地元自治体だ。モデルは川崎市。同市内に集積する富士通など大手電機各社の研究所に埋もれた休眠特許を中小企業に橋渡しする取り組みが功を奏した。同市の知的財産コーディネータ、西谷亨氏(51)は「特許を異なる業界で生かしていく」と力説する。

すべて無償提供

 休眠特許に限らない。20年かけてハイブリッド車(HV)を普及させてきたエコカーの盟主、トヨタ自動車は未来のエコカーと位置づける燃料電池車(FCV)で、独力にこだわってきた開発戦略を転換した。「クルマ(を作る)だけではダメ。みんなでより良い社会をつくる」。トヨタ自動車の豊田章男社長(60)は強調する。

 一部は期限つきだが関連特許をすべて無償で提供する。水素と空気を反応させて動力を得るFCVは機械屋の強みが生きたHVとは勝手が違う。これまで築き上げた産業ピラミッドに加わっていない新戦力も必要となる。特許開放は新たなパートナーを募るためのラブコールだ。

 特許制度は1474年に現在のイタリアに位置するベニス共和国が作ったとされる。発明者の利益を守る目的は今も昔も変わらない。だが、そこにまだ見ぬ仲間を引き寄せる役割を与えるだけでイノベーションの土俵はまだまだ広がる。



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