日本の製造業に綻び 日産・神鋼…不正相次ぐ 現場任せ限 界/問われる経営の力 2017/10/15 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の第一面にある「日本の製造業に綻び 日産・神鋼…不正相次ぐ 現場任せ限界/問われる経営の力 」です。





 日本の製造業への不信が広がっている。日産自動車の無資格者検査に続き、神戸製鋼所でデータの改ざんの常態化が発覚した。世界に「メード・イン・ジャパン」の名声を広げた名門企業の現場はなぜ綻んだのか。(関連記事総合5面に)

記者会見の冒頭、一礼する神戸製鋼所の川崎会長兼社長(13日、東京都港区)=三村幸作撮影

 三重県いなべ市にある神鋼の大安工場はアルミの生産技術を結集したような現場だ。大音量とともにアルミ板を打ち抜いて次々と自動車のサスペンションを作る量産工場の隣に、砂の型枠にアルミを流し込む作業場がある。

 職人風の従業員が金属片やヤスリ、ブラシを次々と手に持ち替えて削り込む砂型はあたかも芸術品だ。顧客それぞれの要求に合わせてアルミ合金の材料を開発し、高精度で複雑な形状を出せる鋳造ノウハウを持つ。その技術力が高く評価され、自動車から航空機、鉄道、防衛産業まで世界中でユーザーを広げた。

 だが世界的な鉄余りや原料高に、建設機械事業の無理な拡販による損失が加わり、神鋼の業績は2017年3月期まで2期連続の最終赤字に沈む。川崎博也会長兼社長は自動車の軽量化で需要が増えるアルミで大増産の号令をかけた。だが工場の負担を緩和するような生産システムの導入はほとんどなく、頼みは現場のがんばりだった。

 「納期の遅れは許されない」。そんなプレッシャーが現場を追い詰める。経営陣と現場の乖離(かいり)が広がり、疲弊した現場でデータの改ざんが繰り返されていた。

 ルノーとの連合でグローバル企業になった日産も「強い現場」に頼る構図は同じだ。

 世界の全工場を統一の指標でベンチマークとし、効率性の高さで目に見える成果を示す工場に生産車種を割り当てる。社内で競わせるコンペはコスト削減で一定の成果を生む一方、副作用も生む。九州の工場から海外に一部の生産を移転したこともあった。グループ内のクルマの取り合いは現場を疲弊させる。

 市場が成熟するなかで少しでもコストを削ろうとするあまり、現場の社員を不正に動かす芽が生じる。強い力を持ち、本社の目が行き届かない現場はブラックボックス化。自らが所属する組織を優先する縦割りも常態化した。管理が行き届かないなかでいつの間にか一線を越えてしまう。神鋼と日産の不祥事からは、そんな構図が透けて見える。

 20世紀初頭から欧米諸国の背中を追い続けた日本の製造業。トヨタ自動車は米国に学び、官営八幡製鉄所はドイツから専門家を招いて産声を上げたが、日本流で磨きをかけることで世界を席巻した。燃費性能の高いクルマは自動車大国の米国で認められ、使いやすく安い家電は世界に輸出され、日本に経済成長をもたらす大黒柱となった。

 一人の天才が革新的なシステムを思いつくような欧米に対し、無数の人のアイデアを積み上げるのが日本流。一人ひとりが「カイゼン」を考え、一斉に1円、1銭を削る努力をする。だがこの強みがいま、限界に直面している。

 グローバル化で人件費が安い新興国が製造現場として台頭し、ものづくりのあり方を大きく変えるデジタル化も進んだ。競争の大前提が変わる時代に求められるのはコツコツとしたカイゼンではなく、大胆な発想の転換だ。経営の力が不可欠なのに、現場に頼り続けたことが日本企業にひずみを招いていないか。

 すでに「モノ作り神話」が揺らいでいることはデータが示す。日本生産性本部によると00年に米国に次ぐ2位だった日本の製造業の労働生産性は14年に独英仏に抜かれ11位に転落した。欧米の強さの原動力の一つは先行する工場のIT(情報技術)化だ。ドイツは「インダストリー4.0」を掲げ、製造業を飛躍的に変えようと動き出している。

 ドイツ南西部にある部品大手ボッシュの工場では200種類の部品を7つのラインで生産していた体制を1本のラインに刷新した。すべての製品にセンサーを取り付け、従業員の状況も無線で管理。全体の生産効率を一気に1割向上させた。現場の力に頼るだけでなく、経営トップが変革の道筋を示して投資を実行することで実現した。

 日本も変化の兆しはある。孤立主義で知られたロボット大手のファナックは「賢い工場」の完成に向け米シスコシステムズやNTTに協力を求めた。トヨタも日立製作所と組み、あらゆるモノがネットにつながる「IoT」を生産現場に持ち込む実験を始めた。

 日本の製造業は今こそ変革が必要な時期に差し掛かっている。求められるのは「現場の力」を再生するため、ダイナミックにカジを切る経営の力だ。

(杉本貴司)



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