日欧豪、国際秩序に責任を 2018/07/06 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の「日欧豪、国際秩序に責任を」です。





トランプ米大統領は民主的な選挙を経て就任した。自身の正当性を盾に権力を行使し、邪魔な制度や機関を壊そうとしている。世界を覆うポピュリズム(大衆迎合主義)に共通する特徴だ。

トランプ政権は1期4年で終わるのか、それとも2期8年に及ぶのか。前者ならまだ傷が浅くてすみそうだが、後者なら取り返しのつかない事態になる。米国の変質が決定的になりかねない。

トランプ氏は世界中を敵に回し、同時多発的な貿易戦争を仕掛けている。米国の信用を損ない、同盟国や友好国との協調関係にひびを入れる危険な行為だ。1930年に米国で成立したスムート・ホーリー関税法は、保護貿易の拡散と大恐慌の深刻化を招き、第2次世界大戦の遠因にもなった。その二の舞を望む者はいないが、トランプ氏が自制できるかどうかが定かではない。

6月8~9日に開いた主要7カ国(G7)の首脳会議では、過激な保護貿易に走る米国と、異を唱える欧州やカナダとの対立が先鋭化した。英知を結集して国際的な課題に取り組んできたG7の機能不全は深刻だ。トランプ氏は2014年のクリミア併合で排除されたロシアをG7に加えるよう求め、ここでも反発を買った。いまロシアを呼び戻す理由があるとは思えない。プーチン大統領は敵同士の争いを見て、ほくそ笑んでいることだろう。

6月12日の米朝首脳会談も危うい状況を作り出した。北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)委員長は「朝鮮半島の完全な非核化」を約束したというが、真意を疑わざるを得ない。トランプ氏は北朝鮮が望んでいた首脳会談にあっさりと応じ、確たる見返りを得ることもなく、大事な切り札を切ってしまった。平和の主導者として振る舞い、支持基盤にアピールするのが、何よりも重要だったのだろう。

「だれもが米国をうまく利用してきた。もう世界の笑い物にはならない」とトランプ氏は言う。あまりにも現実を知らない発言だ。世界が笑い物にしているのは、いまの米国ではないのか。

ティラーソン前国務長官ら伝統的な政策から逸脱しないよう求める高官は、軒並み更迭されてしまった。自らの本能を頼りに動いたほうがうまく行くと、トランプ氏は自信を深めている。最近相次いで発表した中国への制裁関税やイラン核合意の破棄などは、もともとトランプ氏の公約だった。原点にこだわって着実に実行することが、政治的にプラスだと確信しているのだろう。

トランプ氏の支持率は40%台前半の低水準にとどまる。だが一時より改善しているのは見逃せない。共和党員の期待が根強く、景気の着実な回復も追い風になっている。11月の中間選挙は民主党が優勢だと思っていたのに、それほど自信がなくなってきた。

16年の大統領選では、クリントン元国務長官が得票数で上回ったにもかかわらず、トランプ氏が選挙人の過半数を押さえて当選した。20年の次期大統領選で、同じことが起きてもおかしくはない。トランプ氏が再選を果たす可能性は十分にあるとみている。

米国が世界のリーダーとしての役割を放棄する一方で、中国やロシアなどの独裁国家が台頭し、戦後の国際秩序が危機にさらされている。私は民主主義や自由経済の未来をなお信じているが、その後退局面に足を踏み入れてしまったのは否定できない。

カギを握るのは日本や欧州、オーストラリアなどの指導力だ。こうした国・地域が立ち上がり、国際秩序の維持により大きな責任を果たさなければならない。ナショナリズムに屈することなく、世界の繁栄を支える制度や機関を守り抜いてほしい。

日本は価値観を共有する同盟国や友好国との関係を強化しながら、自らの国益を追求すべきだ。防衛費を増やし、自衛力を高める必要もあるのではないか。(談)

 Francis Fukuyama 米ハーバード大博士。米ジョンズ・ホプキンス大教授を経て現職。冷戦終結後、民主主義や自由経済の勝利を宣言した著書「歴史の終わり」が有名。65歳。

Francis Fukuyama

歴史の逆流止めよ

歴史の逆流止めよ

戦後の国際秩序を支えてきた米国の変質。トランプ氏はこれを「偉大な再覚醒」と呼ぶ。おかげで世界は民主主義や自由経済の推進力を失い、独裁国家につけ入る隙を与えてしまった。「歴史」は終わるどころか、遡っているようにみえる。

米国にはトランプ氏に共鳴するかなりの民意がある。元の姿に戻らないことも覚悟した方がいい。ならば日本や欧州、オーストラリアなどが手を取り合い、国際秩序の安定に努めるしかない。「私のメッセージは極めてシンプルだ」とフクヤマ氏はいう。

米国がどれだけ変わろうと、歴史の逆流を放置していいわけではない。トランプ氏の過激な政策から自分の身を守るだけでなく、世界の民主化や自由化に汗をかく国・地域が必要なのは確かだ。

(編集委員 小竹洋之)



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