核心 老いない大国ナイジェリア 欧州総局長 大林 尚 市場に中印しのぐ潜在力 2016/12/26 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞のオピニオン面にある「核心 老いない大国ナイジェリア 欧州総局長 大林 尚 市場に中印しのぐ潜在力」です。





 雲か霞(かすみ)のように多くの人が押し寄せてくる。西アフリカの大国ナイジェリアの商都ラゴスで目にしたのは「雲霞(うんか)のごとく」という形容がぴったりくる光景だった。

 幹線道路をタクシーで走っていると、たちどころに渋滞にはまる。のろのろ運転の車があっという間に取り囲まれる。運転手や同乗者を目当てにした路上の物売りたちだ。車道に躍り出るように迫ってくる彼らが扱っているのは飲食料品、生活用品から新聞、本・雑誌、さらには格安スマートフォン、おもちゃ、花、陶芸品、万国旗などなど。

 「ほとんどすべてのものが手に入るよ。ウインドー開ける?」とタクシーの運転手。記者は遠慮したが、何かを買い求めようとする人は意外に多い。取引中に車が動き出すと何が何でも代金を払ってもらおうと、どこまでも全速力で「伴走」するのがラゴスの路上物売りの得意芸だった。

 経済発展を原油・天然ガスの輸出に頼るナイジェリアは、21世紀最初の10年間に高成長を謳歌した。その後、シェール革命に資源価格の急落が重なり、実質成長率は大きく下方に屈折した。世界銀行の推計だと2015年の完全失業率は7.5%だが、路上物売りを有業者に含めても現実は2ケタ失業とみてよかろう。

 産油国でありながらエネルギー事情が劣悪だ。精製設備をほとんど持たないので、ガソリンを輸入しようにも油価低迷で外貨が足りない。電力も絶対量が不足している。中流以上の家庭に簡易型の自家発電機があるのは停電への備えだ。記者が泊まったホテルや立ち寄ったレストランも照明と空調が時折、消えた。

 慢性の税収不足に直面する政府の電気料金の滞納が悪循環に輪をかける。「連邦、州、地方政府の省庁は過去3年分の電気代930億ナイラ(340億円強)を払うべし」「ストップ・電気泥棒」などという電力業界の意見広告が経済紙に載るのも茶飯事だ。

 政府の怠慢はこれに限らない。11月、ラゴス国際見本市に出展するため現地を訪れた日本企業の担当者は「空港で何度かチップを払わされた」。要は、制服の職員による袖の下の要求である。通関手続きなどを滞りなく済ませたければ数十ドルを、というわけだ。

 5月、キャメロン英首相(当時)がナイジェリアは「素晴らしく腐敗した国」と軽口をたたいたが、あながち誇張とは言えまい。ラゴス駐在が延べ10年近くになる日本企業の現地法人社長は、これでも良くなった方だと言っていたが。

 そして、テロのリスクである。北東部に根を張るイスラム原理主義の武装組織ボコ・ハラムは、軍出身のムスリム政治家であるブハリ大統領の撲滅作戦によって弱体化しつつある。作戦には周辺国も協力しているが、テロ分子の拡散は周辺地域の危険性を高める。

 アフリカ有数の経済大国といえども、日本企業の対ナイジェリア投資が一筋縄では行かないのは自明だ。「働き手の意識が高い」(パナソニック現地法人のディペンドゥ・グーン氏)利点はあるが、日本勢がこれまで中国や東南アジア諸国連合(ASEAN)に築いてきた実績をこの地で再現するのは、容易ではない。

 国情を知る企業人らが口をそろえるのは、超長期の視点の大切さだ。道路、鉄道などインフラ建設は思うように進まないし、エネルギーや金融の手当てには骨が折れる。「高かろう良かろう」より「安かろう悪かろう」を選好する消費者気質は、中国勢に有利だ。日本企業は「安かろう良かろう」を目指して勝負するしかないと、ロンドンを拠点にアフリカ情勢を定点観測している分析家の小松啓一郎氏は言う。

 あまたある不便・不利を補って余りあるのが、雲霞のごとき人である。現在1億8200万人のナイジェリア総人口は、2100年へ向け増え続ける。インド、中国に次ぐ人口大国の出現だ。英銀スタンダードチャータードのラツィア・カーン・チーフエコノミストは「人口の増加と都市集中などが相まって生産性は大きく上向く」と断言する。

 ある国の人口変動のなかで、医療の進歩によって乳幼児死亡率が下がり、15~64歳の生産年齢人口が増え続ける一方、65歳以上の高齢人口がまだ少ない状態を人口ボーナスと呼ぶ。生産、消費の主役である若い層が成長を引っ張る時期だ。1950年代~70年代の日本の高度成長期は、人口ボーナスが原動力だった。

 若い層の膨張は一方で暴力を生む温床になる。15歳以上人口に占める15~29歳人口の比率が40%以上の国は、それ未満の国より内戦のリスクが2.3倍高いという米シンクタンクの分析がある。収入・資産の差が極端に大きいのも国情を不安定にする要因だ。ナイジェリア総人口の55%、1億人は年間所得が3000ドル以下の貧困層である。

 だがアジアに目を転じれば中国の人口ボーナスは程なく、インドは30年代に終止符を打つ。老いゆく両大国を尻目にナイジェリアの人口ボーナスは1世紀にわたって続く。超長期の視点が必要なゆえんである。

 8月、安倍晋三首相が出席してナイロビで開いたアフリカ開発会議(TICAD)は、ナイジェリアをはじめとする混沌の国々に日本企業の目を向けさせた。それを一過性で終わらせるのは、まことに残念だ。



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