核心 若返るサウジはどこへナショナリズムにも変化本社コラムニ スト脇祐三 2017/7/31 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞のオピニオン面にある「核心 若返るサウジはどこへナショナリズムにも変化本社コラムニスト脇祐三」です。





 サウジアラビアでサルマン国王(81)の子息、ムハンマド・ビン・サルマン副皇太子(31)が皇太子に昇格し、指導層の世代交代が進む。新皇太子への権力集中で石油の王国はどう変わるのか。アラブ民族主義や資源ナショナリズムの時代の後に生まれた世代の台頭は、中東をめぐる国際関係の変化にもつながる。サウジの行方は、中東の地政学の新たな焦点になっている。

 6月21日に発表されたサウジの皇太子交代は唐突だった。国王の甥(おい)に当たるムハンマド・ビン・ナエフ皇太子(57)の任を解く勅令には、サウジの更迭人事によくある「本人の要望により」という一節がなかった。その日のうちに、更迭された前皇太子が軟禁状態に置かれたという情報も広がった。

 英国のロイター通信、米国のニューヨーク・タイムズなどは、以下のような「政変」の内幕を伝えている。

 イスラム教のラマダン(断食月)と重なった6月、多くの王族は聖地メッカなど紅海側地域に滞在していた。サルマン国王は6月20日夜、ムハンマド前皇太子をメッカの宮殿に呼び出し、皇太子の地位を副皇太子に譲り内相の職も辞すよう迫った。携帯電話を取り上げられ、外部と連絡できなくなった前皇太子は、抵抗をあきらめ、翌日の明け方に退任に同意した。

 前皇太子はカタールとの断交など新皇太子が主導する性急な政策に反対していたようだ。国王は更迭の理由として鎮痛剤の乱用で判断力が落ちていると語ったという。前皇太子は2009年、過激派アルカイダの自爆テロで重傷を負い、その後遺症を指摘されてはいた。サウジ政府高官は「皇太子の交代は国益に沿った正当なもの」と説明するが、一種の「宮廷クーデター」という見方は根強い。

 サウジでは、36人いた初代国王の息子(第2世代)のうち有力者が兄から弟へと王位を継いできた。初代国王の孫に当たる第3世代の重鎮、ハリド・メッカ州知事も77歳になり、指導層全体の高齢化が構造的な問題だった。

 一昨年1月に即位したサルマン国王は、即位後まもなく異母弟のムクリン皇太子を更迭して50代の甥を皇太子としたが、今回はさらに若い息子に王位を直系で継承する道筋を整えた。指導層の若返りを一気に進め、新皇太子が旗振り役になっている経済改革に弾みを付ける狙いだろう。国王が生前退位し、新皇太子が王位につくシナリオまで取り沙汰されるようになった。

 サウジは伝統的に巨大な王家の中で権力を分散し、コンセンサスを保って王制を維持してきた国だ。すでに国防相で王宮の長官であり、経済政策の責任者も兼ねている若い新皇太子が、さらに大きな権力を握ることや、父子の王位継承への反発もある。

 6月21日の別の勅令は統治基本法を改正し、第3世代の国王が直系の皇太子を立てられない趣旨の原則を加えた。現国王から新皇太子、その子へと、サルマン系が王位を独占し続ける可能性への警戒感を和らげる狙いとみられる。

 その一方で、権力の集中は加速している。前皇太子の更迭後、後任の内相には同じナエフ系のアブドルアジズ王子(33)が就任した。だが、最近、治安関連の政府機関が再編され、内務省の下にあった検察や治安部隊を指揮する権限は事実上、王宮に移った。新皇太子が一段と反対勢力ににらみを利かせる形になる。

 外交では4月、新皇太子の弟であるハリド王子が駐米大使に任命された。サウジの国民の6割は30歳未満だ。若いプリンスを相次いで要職に起用するのは時の流れに沿った動きだが、若い世代の発想はシニア世代と大きく異なる。

 新皇太子が推し進める国営石油会社サウジアラムコの株式公開について、「金の卵を産む鶏を、なぜ外国の投資家に売るのか」といった異論が同社OBなどから噴き出した。米石油メジャーとの長い交渉を経て、アラムコが完全国有化されたのは1980年代だった。85年生まれの新皇太子は、資源ナショナリズムが高揚した時代を知らない。

 新皇太子は昇格前、5月のテレビ番組で、「何でも国有というのは、社会主義者か共産主義者の発想だ」と反対論を切って捨てた。

 第3次中東戦争から50年、第4次中東戦争と第1次石油危機から44年たった。アラブ民族主義の高揚も、新皇太子らが生まれる前の出来事だ。

 90年のイラクによるクウェート侵攻で「アラブの大義」は決定的に風化した。90年代以降、アラブ諸国同士が外国企業の投資誘致を競う時代も続いた。今のアラブで支配的なのは、自国の利益をまず追求するナショナリズムだ。

 米国のトランプ政権は中東和平の仲介に意欲を見せる。だが、イスラエルとパレスチナの最終合意の展望は開けない。大統領の娘婿で新皇太子と親密なクシュナー上級顧問らを中心に、米政権はイランを共通の脅威と見なすイスラエルとサウジなどの関係正常化を模索している。だから、駐イスラエル米大使館をテルアビブからエルサレムに移転するという、アラブ諸国が反対せざるを得ない公約の実行を先送りした。

 イスラエルとサウジなどが関係を正常化するうえで、障害はなお多い。とはいえ、サウジでも「アラブ・ナショナリズム後」の世代に権力が移行しつつあり、中東はパラダイムの転換期に入った。昔と同じ鋳型を当てはめても、今の動きはわからない。



コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です