正恩氏、3年越し対米戦略 2018/05/31 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の「正恩氏、3年越し対米戦略」です。





北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)委員長が米朝首脳会談への執着をあらわにしている。30日には側近の金英哲(キム・ヨンチョル)朝鮮労働党副委員長をニューヨークに派遣した。メンツをかなぐり捨てたなりふり構わぬ姿の背景には、3年越しで追い求めてきた対米戦略がある。

(画像:メンツにこだわらない姿勢をみせる金正恩氏=コリアメディア提供・共同)

金英哲氏はニューヨークでポンペオ米国務長官と会談する。トランプ米大統領による中止通告から約1週間。北朝鮮は約18年ぶりに指導部の幹部を米国に送り込み、6月12日開催で再調整が進む首脳会談に向けて非核化手法などを詰める。

呼びかけも無視

北朝鮮がいかに首脳会談を切望しているか。その源流は2016年5月にさかのぼる。36年ぶりの朝鮮労働党大会で、金正恩氏は「核保有国の地位になったのだからそれに見合った対外関係を発展させる」と表明。主権が侵害されなければ核兵器を先に使用せず、核拡散防止義務も誠実に履行すると主張した。

平和協定交渉を狙った米国へのラブコールだった。このとき韓国にも緊張緩和を呼びかけた。

党大会では、国家経済発展5カ年戦略に数値目標を掲げられず、「経済部門はまだ相応の高さに至っていない」と珍しく弱音を吐いた。国家目標の「経済と核の並進路線」が頓挫しかねないとの焦りがのぞいた。

いまと状況が似ている。だが当時、米韓を率いていたのは、北朝鮮への「戦略的忍耐」政策をとったオバマ大統領と、強硬派の朴槿恵(パク・クネ)大統領。金正恩氏の訴えは無視された。

17年1月、トランプ米大統領が登場した。北朝鮮への先制攻撃や指導部を想定した「斬首作戦」の脅威が金正恩氏を追いつめる。後ろ盾のはずだった中国との挟み撃ちにされかねない。北朝鮮筋によると、金正恩氏は同年10月の内部会議で「公式・非公式、表・裏など手段と方法を選ばずに積極的な外交戦を展開しろ」と指示を飛ばした。

平昌冬季五輪を契機とした韓国との関係改善を国際制裁網の突破口にする戦略もこのとき決まった。「米国と対話局面に入りさえすれば中国との関係は自然と緩和する」とも言及したという。

「攻撃」に危機感

そこまで金正恩氏を慌てさせたのは「5月以降に米軍が攻撃を仕掛けてくるかもしれない」との危機感だった。トランプ氏の出方が読めない。国連制裁の緩和も時間がかかるため、北朝鮮は内部固めにも力を入れた。

17年秋には、緊張局面の長期化をにらみ、地域別の「戦略物資備蓄計画」を18年春までに実行し、民間の人的、物的資産や能力についても国家が総動員できるよう党内で指示が出されたという。

すべては金正恩氏の体制保証のためだ。北朝鮮は9月9日に建国70年を迎える。その節目を金正恩氏による新時代の到来に位置づける構想がある。朴奉珠(パク・ボンジュ)首相は4月11日の最高人民会議で「今年を祖国の歴史に特筆すべき勝利の年に輝かす」と強調した。北朝鮮指導部は国営メディアを通じて科学、国防、農業など各部門に発破をかけている。

北朝鮮関係者の間では、建国70年に金正恩氏が国家主席に就任するとの観測がある。祖父の金日成主席に並ぶ偉大な指導者になったと国内外にアピールするとの解説だ。

金正恩氏にとって米国との関係を改善し、体制保証を得るための舞台となるのが米朝首脳会談だ。中止通告を受けても会談実現に執着したゆえんだ。しかし、最大の焦点の非核化では溝が残る。核・ミサイルを中心とした科学技術は自らの権威の象徴であり、兵器以上の意味を持つからだ。核放棄後に将来、米国から攻め込まれかねないとの不信感も消えない。

そこには体制保証と引き換えに「非核化」を約束しても段階的に核軍縮を進め、最後まで核の開発能力は残そうとする本音がみえる。米国も韓国も北朝鮮の核施設の全容を把握できていない。「『非核化した』と主張して見返りを得たら、膨大な作業の検証で時間稼ぎする」と専門家は警鐘を鳴らす。

3年越しで実現が近づく首脳会談。トランプ氏相手に、結果まで思い通りになるかは金正恩氏にもまだ分からない。

(編集委員 峯岸博)



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