物差しを越えた企業活動 政府の関与は戦略的に 編集委員 滝田洋一 2016/01/04 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞のオピニオン面にある「物差しを越えた企業活動 政府の関与は戦略的に 編集委員 滝田洋一」です。





 企業に設備投資と賃上げを促そうと、安倍晋三政権があの手この手を繰り出す。経済の停滞を打破したい。そんな政策目標に成果を出すには、政府の関与は戦略的であるべきだ。

 未来投資に向けた官民対話。2015年10月の第1回会合で、小林喜光経済同友会代表幹事は政府側の説明資料に首をかしげた。

 「データには、設備投資はソフトウエアを除くと書いてある。今やソフトウエアをどうお金に換算していくかが肝心だ」。投資といえば、大きな工場を建てるイメージがまだ強いが、実態は全く異なるという。

 「企業は投資と認識しているのに、国内総生産(GDP)統計には計上されていないものが増えているのではないか」。大手電機メーカー首脳からただされて、みずほ総合研究所は今のGDPで捕捉されていない投資を試算してみた。

 ちなみにソフトウエアはGDPに含まれる。それでもGDPから漏れている無形資産投資は大きい。金額にして年25兆円。建物や機械など有形固定資産の投資が年58兆円だから、無形資産はその4割強に当たる。

 こぼれ落ちた無形資産の内訳をみると、研究開発に投じられた分が年15兆円。著作権、ライセンス、デザインを合わせ、革新的な資産は年19兆円に達する。

 ブランドや技術力、企業固有の人的資本、組織構造。経済的競争能力と呼ばれる価値も年7兆円ある。

 アルファベット(グーグル)やアマゾンなど、この分野で先頭を走る米国。無形資産投資は10年に年1.6兆ドル強と、円換算で200兆円規模に達する。日本に比べた規模の大きさがうかがえよう。有形固定資産への投資がリーマン・ショック前の年1.4兆ドルから1.1兆ドルに落ち込むなか、米経済をけん引する。

 有形から無形へと経済の軸足が移る。米国は無形資産投資を幅広くGDPに加えることになった。日本でも16年12月からは、先の25兆円がすべてではないにせよ、GDPに無形資産投資が計上される。GDPのかさ上げなどと、ケチなことを言ってはいけない。

 18年度までに民間の設備投資を10兆円拡大。そんな目標を立てるうえで、大切なのは大きな工場のイメージにとらわれないことだ。法人税減税などで、政府が投資を後押しするなら、何よりも経済の変化をつかまえることが肝心だ。

 投資をめぐる企業と政府の認識のズレは、無形資産ばかりでない。子会社の株式取得やM&A(合併・買収)は、企業経営者からすれば立派な投資である。

 ところが、自ら工場を建て機械設備を購入するなら、GDPの設備投資となるが、子会社の株式を取得してもGDP上は投資には計上されない。こうした投融資としての株式保有は年14兆円にものぼっている。

 ポイントは投融資先の子会社やM&Aの対象企業の多くが、米国やアジアなど日本国外にあるということだ。企業は需要拡大が見込まれる海外で、生産・販売と投資のアクセルを踏んでいるのである。

 政府は外に向かう流れに口出しせず、成り行きに任せる。ひとつの選択肢ではあるが、それでは企業活動と国民経済との溝は深まってしまう。

 日本経済の再生を目指す安倍政権は、あえて放任から関与へとカジを切った。甘利明経済財政・再生担当相は、批判を承知としたうえで、デフレ型の停滞から脱却する過程での政府関与の必要性を強調する。要はどんな関与であるかだ。

 いま世界を覆うのは第4次産業革命というべき、大きなうねりである。19兆ドル。米シスコ・システムズは、インターネットが様々なモノをつなぐことで、10年間にそれだけ巨額の経済価値を生み出す、と試算する。IoT(インターネット・オブ・シングズ)やAI(人工知能)は、今後どのくらい加速するか想像もつかない。

 「新技術の発達は米国の独壇場のようにみえるが、これから本格化する製品やサービスへの応用では、日本にも巻き返しのチャンスがある」。技術を経営にどう生かすかが専攻の松尾豊東大准教授の見立てだ。

 余計な規制をなくすのは、いわずもがな。新技術を社会で実際に使い、水準を高める場をつくるのは、政府の役割である。

 第4次産業革命はドイツでも進行中である。産業全体の効率を最適化する。そんな行き方は「新興国の挑戦を受けた製造業が、生き残りのために編み出した」。ドイツの経営コンサルティング会社、ローランド・ベルガーの長島聡日本共同代表はそう言う。

 競争力の強化という長期的方向を産業界が共有する。企業同士が一般的な部品などは思い切って共通化し、自社の売り物とする分野を絞り研ぎ澄ます。政府や大学・研究機関も産業を後押し、実用化に役立つ方向を目指す。このあたりがドイツ流である。

 「グローバルハブ(世界の中心軸)になる」。一連の流れを踏まえ、甘利経財相は日本の針路をそう設定する。付加価値生産と研究開発の中心になる。そのためには、研究開発の環境整備で関与する、という。

 他国にモデルを求めるばかりでは芸がないが、ドイツ流の産官学の連携はひとつの参考になるかもしれない。せっかく企業収益が過去最高となったのだから、前向きの循環を起こす戦略的な一押しが欠かせない。



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