真のイギリス流野党とは 2018/06/03 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の「真のイギリス流野党とは」です。





「野党にもっと政策提案権を与えてはどうか」。5月16日。国会改革の必要性を話し合った自民党会合で、若手議員の1人から意見があがった。見せ場をつくれないから不毛な日程闘争に走る。だったら違う形で野党を活用したらどうか――というわけだ。最大派閥の細田派議員は切り返した。「野党なんか弱くていいんだよ」

(画像:2007年、英議会の党首討論で質問に答えるブレア首相(当時)=ロイター)

野党第1党の議席数は自民党の2割にすら満たない。対抗するには「大きな塊」をつくるべきだとの総論では皆一致するが、実態は立憲民主党、国民民主党、無所属の3派に割れたままだ。希望の党から無所属に転じた細野豪志元環境相は「二大政党制を目指した四半世紀の歴史は終わった」と総括する。

とはいえ、安倍政権の基盤が強固なわけではない。3分の2を超える議席を持ちながら、学校法人「森友学園」「加計学園」問題で揺れる。日本経済新聞の5月の世論調査では不支持率が53%と過去最高だ。

二大政党制を志向する小選挙区制を導入した1990年代の政治改革。ここに不備はなかったのか。自由党の小沢一郎共同代表に話を聞いた。「議院内閣制では与党が立法府と行政府を両方抑えてしまう。立法府にもっと制度的な権能を与えないといけない」

小沢氏が目指したのは英国をモデルとする二大政党制だ。本家はどうしているのか。現代英国政治を専門とする成蹊大の今井貴子教授を訪ねた。「英国型議院内閣制では内閣に権力が集中する。政権を委ねるエリートへの信頼がないと存続し得ない。だからこそ高い政治観が求められてきた」。今井氏はこう指摘したうえで、野党の活動と政権担当能力の醸成を促すシステムが幾重にも整備されてきたと明かす。

例えば75年に導入した「ショートマネー」。下院での議会活動対策として野党だけに国庫から支出する資金だ。96年には上院にも拡大された。2000年にはマニフェスト(政権公約)をつくるための助成金制度も整えた。

野党・労働党には16年に約609万ポンド(約8億8千万円)の国費が充てられた。党全体の収入からみれば1割強。政党助成金に依存する日本ほど大きな額ではないが「有力な野党は憲政に不可欠とする哲学の一端を見る」(今井氏)

支援は金銭面だけではない。64年につくられた「ダグラス=ヒューム」規則が一例だ。当時の首相の名を冠したこの制度は政権移行を円滑に実施する仕組みの1つだ。総選挙前に野党の政治家が各省庁の幹部と政権移行のための協議をすることができる。85年には「野党日」も導入された。野党が選択した議題を国会で討議する日だ。

二大政党制のお手本とされた英国とて、社会が多様化し民意が受け止めきれなくなっている。欧州連合(EU)離脱(ブレグジット)をめぐる不透明感はその象徴だろう。それでも公正な政党間競争は大前提だと今井氏はいう。

5月30日。日本の国会では1年半ぶりの党首討論が開かれた。モデルは英国議会のクエスチョンタイム。「党首討論はほとんど歴史的な役割を終えた」「あり方を全面に見直した方がいい」。野党党首からは是正を求める声が相次いだ。

「いかなる政府も、手ごわい野党なくしては長く安定することはできない」。19世紀後半の英国首相、ディズレーリはこんな言葉を残している。与党の政権運営に緊張感を与えるのは野党の重要な役割だ。真のイギリス流野党はどうあるべきか。現行制度を見直す余地はたくさんある。

(政治部 黒沼晋)



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