真相深層 「イスラム国」、東南ア浸透 フィリピン南部で 紛争 2017/7/1 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の総合面にある「真相深層 「イスラム国」、東南ア浸透 フィリピン南部で紛争 」です。





 フィリピン南部ミンダナオ島で武力紛争が勃発してから1カ月あまり。過激派組織「イスラム国」(IS)の影響を強く受け、支配地を樹立しようとした武装組織との戦いは一時内戦ともいえる規模に発展した。中東で追い詰められるISは、イスラム教徒の多いインドネシアやマレーシアに根を伸ばす。ISの流入は東南アジアの経済に冷や水を浴びせかねない。

画像の拡大

ミンダナオ島マラウイ市に展開するフィリピン軍兵士(6月28日)=ロイター

 「刑務所から受刑者を逃がし、学校に押し入って人質を取ろう」。机に広げた手書きの地図をのぞき込んで作戦を話し合う10人を超える男たち。AP通信は、2つの武装組織がミンダナオ島マラウイ市を占拠する計画を練る映像を報じた。

 中央に陣取るイスニロン・ハピロン容疑者はイスラム過激派「アブサヤフ」の指導者。両側には別の過激派「マウテ・グループ」を創設したマウテ兄弟が座る。治安当局は5月23日、ハピロン容疑者を拘束しようとした。これに抵抗するマウテが市の占拠を始め、政府軍と衝突した。ドゥテルテ大統領はすぐに同島に戒厳令を布告した。

 政府軍は戦闘機の空爆を含め大規模な掃討作戦を展開。ドゥテルテ氏が「出ていけ」と突き放した米軍にも、特殊部隊の支援を仰いだ。500人ほどのマウテの戦闘員は約300人が殺害された。死者は市民44人を含め400人を超す。

 「このような事態になり大変申し訳ない」。ドゥテルテ氏は6月20日、避難民に謝罪した。同島ダバオ市長を20年超も務めた同氏。市長時代に麻薬犯罪者を強硬に摘発、同市の治安を回復させた。だが、政府軍は今回の紛争で長期戦を強いられ、完全制圧のメドさえ明言できないでいる。ドゥテルテ氏には誤算だったに違いない。

 フィリピンは国民の9割がキリスト教徒だが、南部は古くから多くのイスラム系住民が暮らす。地元で結成されたアブサヤフやマウテは徐々にISの過激思想に染まり、爆弾テロや誘拐を繰り返す。ハピロン容疑者はISから東南アジアの指導者の地位を与えられたとされている。

 遺体からはインドネシアやマレーシア、サウジアラビアなどの戦闘員も見つかった。ISの活動が国境を越え、東南アジアにも深く浸透していることを浮き彫りにした。

 交流サイトを通じ、ISの思想に呼応する形で各国の過激派が自爆テロなどを繰り返す。フィリピン、インドネシア、マレーシアに接するミンダナオ島沖の海域では、過激派による船員の誘拐事件が頻発。危機感を強めた3カ国は異例の合同海上警備を始めた。

 フィリピンはアロヨ政権の2002年、米国と大規模な合同軍事演習をミンダナオ島で実施。同盟関係にある米比はアブサヤフの弱体化で成果を上げた。アキノ前政権も米国との軍事協力を強化した。ところが、ドゥテルテ氏は昨年6月末に大統領に就任すると、米国と距離を置く政策に転換した。過激派は米軍の存在感が後退した間隙を突いたとも指摘される。

 過激派の横行は、好調な経済にも悪影響を及ぼしかねない。政府は成長維持へ大規模なインフラ投資計画を打ち出したばかり。紛争はマラウイ市に限られ、首都マニラのあるルソン島などは平常と変わらないが、外国企業の投資が冷え込むことも懸念される。

 英国際戦略研究所(IISS)のジェンス・ワーデナー氏は中東で劣勢のISが東南アジアに流れ込んで「地場の過激派勢力と連携を深めている」と指摘。戦闘員の流入は続くと分析する。治安改善をテコに外資を呼び込んで経済を良くするドゥテルテ流の成長モデルは崩れかねない。

 日本政府は官民でフィリピンに1兆円の経済支援を表明した。フィリピンに限らず東南アジアは日本企業に重要な市場であり、事業・生産の拠点だ。この地域がISの根城になれば、日本も対岸の火事ではいられない。

 中東最大のIS拠点、イラク北部のモスルは有志国連合の攻勢で陥落が目前だ。中東で劣勢なISは世界中に戦闘員を拡散し、拠点化をもくろむ。アジアの危機は逆に増幅する懸念がある。

(マニラ=遠藤淳)



コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です