真相深層 「クロヨン」棚上げゆがむ税 自営業・農業者の 所得捕捉率なお低く 高所得会社員にしわ寄せ 2017/12/8 本日の 日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の総合面にある「真相深層 「クロヨン」棚上げゆがむ税 自営業・農業者の所得捕捉率なお低く 高所得会社員にしわ寄せ」です。





 政府・与党が2018年度税制改正で、所得が高めの会社員に負担増を求め、自営業者やフリーランスの所得税を減税する案を検討している。だがガラス張りの給与所得に比べ、事業所得や農業所得の透明性が低い「クロヨン問題」の解消は遠い。所得の捕捉率を高めないと、新たな課税のゆがみを生む恐れがある。

給与控除見直し

 「現行制度は特定の働き方による収入にのみ手厚い」。政府税制調査会(首相の諮問機関)が11月に出した報告書は会社員に厳しい見直しの方向性を示した。やり玉に挙げたのは会社員が課税所得を計算する際に一定額を経費とみなして差し引く給与所得控除だ。主要国と比べて「相当手厚い」と引き下げを求めた。

 給与控除は13年に245万円を上限とし、16年に230万円、17年は220万円と下げてきた。18年度改正でさらに減らし、全ての人が使える基礎控除を増やす。中低所得層は増減税なしだが、年収800万円超の人は増税にする案が軸だ。

 給与控除はスーツや文具など仕事に必要な経費の概算控除のほか、他の所得との負担調整という性格があるといわれてきた。源泉徴収の会社員は所得をごまかしようがないのに対し、自営業者や農業者は税務当局に所得を把握されにくい。給与控除はこの不公平感を調整する役割を担ってきた。

 ところが政府税調は給与控除を「基本的に勤務経費の概算控除」と位置づけ、実際にかかった経費より過大だと指摘。財務省によると平均的な会社員の経費は年25万2千円。計算通りなら給与控除の大幅カットは避けがたい。

 一方、かつて給与所得、事業所得、農業所得の捕捉率は「クロヨン(9割・6割・4割)」とも「トーゴーサン(10割・5割・3割)」ともささやかれた。本当にこの不公平感が解消したといえるのかは微妙だ。

 クロヨンを初めてデータで裏付けたのは政府税調会長などを歴任した石弘光氏だ。1981年に発表した論文で、国民経済計算(GDP統計)や税務統計を使って捕捉率を推計し、実際にクロヨンに近い格差があると指摘した。

 その後、多くの研究が発表される中で注目を集めたのは経済財政相を務めた大田弘子氏らの03年の推計だ。77年に69%だった自営業の所得捕捉率が97年に95%に高まるなど、捕捉率の格差が80~90年代に大幅に縮小したと結論づけた。農業経営が大規模化し、消費税の導入によって税務署に提出する書類も増えた。税務当局が農家や自営業者の所得を把握しやすい環境が整ってきたという。

 だがクロヨンが解消したという主張には複数の反論も出ている。日本総合研究所の立岡健二郎氏が発表した14年の推計では事業所得の捕捉率は約69%にとどまった。複数の統計から推計した国民経済計算ではなく、全国消費実態調査などを使ったのが特徴だ。

格差の是正必要

 立岡氏は「いまでも課税の公平性が著しく損なわれている可能性がある」と指摘。様々なデータが完全にそろうわけではなく、クロヨン推計のバラツキは大きい。「米国やスウェーデンのように政府が実態を調べて公表すべきだ」という。

 児童手当や保育料、介護や医療の保険料なども所得に応じて変わる。所得の捕捉率に格差があると、社会保障制度の公平性も保てない。社会保障を負担能力に応じた制度に変えていくためにも捕捉率向上が欠かせない。

 新たなクロヨン問題もある。「シェアリングエコノミーの所得は誰が捕捉するのか」。政府税調の会合ではこんな声が出た。民泊経営やユーチューバーなど会社に属さない働き方が広がると、税務当局の所得把握が一段と難しくなる。18年度改正ではクロヨンへの対応に踏み込んだ議論はなかった。課税の公平性を高める切り札と期待されたマイナンバーの活用も広がっていない。

 所得税は20年以上も抜本見直しをせず、社会の変化に立ち遅れている。税の大原則は公平・中立・簡素。所得の捕捉率ができるだけ高く、働き方で大きく税負担が変わらないしくみが理想だ。クロヨン問題を放置して高所得の会社員に負担をしわ寄せするだけでは、経済の活力は高まらない。

(木原雄士)



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