真相深層 アマゾン、新陳代謝促す 高級スーパーのホール フーズ買収 貪欲さ、産業の垣根越える 2017/6/30 本日の日本経 済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の総合面にある「真相深層 アマゾン、新陳代謝促す 高級スーパーのホールフーズ買収 貪欲さ、産業の垣根越える」です。





 米アマゾン・ドット・コムが高級スーパーのホールフーズ・マーケットを傘下に収める。1.5兆円を投じる買収劇はネット上の仮想店舗でモノを売る小売業が実店舗に進出する象徴的な出来事だ。米国では自動車や医療など各種産業で「ネット」と「リアル」の融合が進む。だが流れはそこで終わらない。起きているのは産業の垣根を越えた企業の新陳代謝だ。

生鮮品に本腰

 「アマゾンエフェクト(効果)もここまで来たか」。買収発表があった16日、シリコンバレーで働くゲーム大手の首脳は部下とそんな会話を交わした。アマゾンがあらゆる企業・産業をのみ込むことを意味する「アマゾン効果」は今や米メディアの流行語。米国でこの話題に関心のない大企業の経営者はまずいない。

 アマゾンのジェフ・ベゾス最高経営責任者(CEO)はホールフーズ買収の狙いについて、沈黙を守っている。だが店舗を生かしてアマゾン流のビジネスを拡大するとの予想が主流だ。

 ホールフーズは高額所得者層の住む地域に店舗を構えている。アマゾンはこれを鮮度管理機能のある「倉庫」としても活用し、生鮮品のネット宅配を本格化させるとみられている。センサーやネット上の課金システムを駆使したレジ決済不要の仕組みもホールフーズに導入する可能性がある。

 かつて、アマゾンと同じように周辺経済への甚大な「効果」を指摘されたのが世界最大の小売業、米ウォルマート・ストアーズだ。1962年に1号店を出した同社は、集中購買と効率物流を背景に薄利多売型の大型店舗を郊外に大量に出店し急成長をとげた。個人商店を次々と駆逐し、衣料品や雑貨など安価な製品を中国から大量輸入。米国の消費風景を変えた。

 全米に4600超の店舗を持ち米国最大の民間雇用者にまで成長したウォルマートだが、ネット販売への対応は遅れた。

 米国では現在、モノの1割弱がネットで買われており、特にスマートフォンを使いこなす若者層はネットへの依存度が高い。2016年のウォルマートの北米売上高の伸び率が前年比で2.7%だったのに対してアマゾンの小売部門は24.6%増。同社もまたアマゾン効果の犠牲者だ。

 だが、アマゾン効果を小売業だけの変革だと考えると本質を見誤る。

 変化を読み解く鍵のひとつがネットやクラウド、そして人工知能(AI)の急速な普及だ。企業は大規模なデータセンターや保全要員を自前で持つ必要がなくなり、単純な業務はロボットがこなすようになってきた。アマゾンのクラウドサービス「AWS」は売上高全体の10%程度を占める稼ぎ頭のひとつだ。

70近い新規事業

 データ分析の精度が高まったことも大きい。アマゾンは顧客の購買データを詳細に分析し消費者を囲い込んだ。グーグルも300万マイル(482万キロメートル)を超える車の公道走行データを生かし、既存自動車メーカーの先をいく自動運転ソフトの開発につなげた。

 産業のソフト化だけでは企業は成長しない。ベイン・アンド・カンパニーのパートナー、ダレル・リグビー氏は「アマゾンの強さはネット販売ではなくイノベーションにある」と指摘する。同氏の調べではアマゾンは17年までの22年間に70近い新規事業を始めている。うち18は失敗し撤退しているが、この例にみられる貪欲な開拓欲が結果的にアマゾンを今の地位に押し上げたと見る。

 この姿勢は競争力のあるIT(情報技術)企業に共通している。過去10年の世界の有力企業の研究開発費を比べると06年は上位5社のうち4社が自動車メーカー。一方で16年はアマゾン、グーグルの持ち株会社アルファベット、インテルの3社が上位5社に名を連ねた。3社ともに06年に首位だったフォード・モーターの80億ドルを大きく上回る投資額だ。

 ベゾスCEOは創業精神の衰えを「死を伴う停滞」と表現する。業態論を超えた鬼気迫る成長への覚悟が産業地図を塗り替える。ホールフーズの買収は日本企業にとっても対岸の火事ではないはずだ。

(シリコンバレー=中西豊紀)



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