真相深層 グーグル、起業の苗床に 旺盛なM&A、米でリスクマネー循環 日本、資金の出口課題 2014/02/15 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の総合1面にある「真相深層 グーグル、起業の苗床に 旺盛なM&A、米でリスクマネー循環 日本、資金の出口課題」です。





 世界のM&A(合併・買収)で今年、先陣を切ったのは米IT(情報技術)大手のグーグルだ。買収の対象は2社。家庭用サーモスタット(自動温度調整装置)の米ネスト・ラボと、人工知能(AI)を開発する英ディープマインド・テクノロジーズで、どちらもベンチャー企業だ。

 「生活関連の全情報を収集するビジネスへ布石を打つものだ」(米シリコンバレーの投資家)。主軸である検索・広告事業から、多角化を進めていく買収に他ならない。

月1件ペース

 ネストのサーモスタットは家族の行動パターン情報を集める。ディープマインドは車の自動運転などに使えるAI技術を持っている。シリコンバレーでは早くも「次の標的は家電か自動車産業」とささやかれる。

 世界のITをリードするグーグルが仕掛ける買収戦略は、常に関心の的だ。トムソン・ロイターの集計によれば、2005年から14年1月までにグーグルが実施したM&Aは合計130件。金額にして250億ドル(2兆5千億円)に達する。

 ならせば毎月1件ずつというペース。同じ米検索大手のヤフーと比べても積極姿勢は鮮明だ。ヤフーの同期間のM&Aは85件、56億ドルであり、グーグルは件数で1.5倍、金額は4.5倍だ。

 圧倒的な検索事業を苗床とし、芽が出て間もない新興企業をM&Aで手に入れて育成、自身の成長を加速させてきたのがグーグルだ。携帯電話の基本ソフト(OS)のアンドロイド、世界地図のグーグルアース、動画共有サイトのユーチューブ。どれも05年前後に買収した企業が源流だ。

 もちろん、連戦連勝ではない。「過去10年の買収の3分の1は失敗だった」。同社の新規事業担当者が12年に米メディアで語ったこともある。10年に約2億ドルで買収したソーシャルゲーム開発のスライドは失速。12年に買収したモトローラの携帯事業も期待した成長が見込めず売却に動いた。

 見逃せないのは、グーグルが米国でリスクマネーを循環させる舞台装置になっている点だ。新興企業に出資するベンチャーキャピタル(VC)にとって、グーグルに買収してもらうことで投資回収の機会を得られる。

 ネストの場合、創業直後に米老舗VCクライナー・パーキンス・コーフィールド&バイヤーズ(KPCB)が出資。グーグルによる買収で、KPCBは出資額を20倍に増やしたとされる。その投資収益は次のベンチャー企業への種まきに使われていく。

 VCがグーグルへの売却を視野に創業間もない企業に投資。企業もいずれはグーグルに買われる前提で事業を拡張――。「グーグル・エコシステム」とでも言うべきリスクマネーの道筋がある。

 日本に目を向ければ、ベンチャー育成による開業率の向上は、アベノミクス(安倍晋三首相の経済政策)の重要政策の一つだ。かつてハードルが高かった新規株式公開(IPO)も、今は赤字企業でも可能になった。米VCから直接資金を得る例もある。クラウドを使った会計ソフトを開発するフリー(東京・港)は創業直後から米有力VCのDCMが出資した。

 ただ、それで十分とはいえない。起業を促進していくには「M&Aを通じて国内でリスクマネーの循環経路を確立することが課題だ」(早稲田大学ビジネススクールの長谷川博和教授)。

IPOに偏る

 日本でVCが投資を回収する道は、IPOに大きく偏っている。「IPOとM&Aの両方がある米国に比べ、日本のVCの収益率は低くならざるをえない」(同教授)。それゆえ、国内の年金基金でさえ、日本よりも海外のVCへの出資を選ぶ場合が多い。

 「大企業のR&D(研究・開発)費をリスクマネーに」。日米で活動するベンチャーキャピタリスト、伊佐山元氏の提案だ。同氏によれば、今年度はトヨタ自動車を筆頭に、上位10社で総額5兆円規模の資金をR&Dに費やす。この1%の500億円でも、M&Aを通じてベンチャーに毎年向かえば、「相当のインパクトになる」(同氏)。

 日本でグーグルのようにマネーを循環させる役目を果たす企業が現れるか。大企業が潤沢な手元資金の使い道を模索する今、市場の関心はそこに向かっている。

(編集委員 小平龍四郎)

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