真相深層 マレーシア、独裁のワナ マハティール氏・ナジブ首相、対立収まらず 政情混乱、外資誘致の成長に影 2016/04/27 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の総合1面にある「真相深層 マレーシア、独裁のワナ マハティール氏・ナジブ首相、対立収まらず 政情混乱、外資誘致の成長に影」です。





 マレーシア首相を22年間務めたマハティール氏(90)が、現首相のナジブ氏(62)の退陣を求めて執拗な政権批判を続けている。政府系投資会社を巡る資金疑惑が表向きの理由だが、発言の背後にはナジブ氏への根深い不信が見え隠れする。自身が道筋を敷いた国家戦略がことごとく否定され、孤独な戦いに追い込まれたとの指摘もある。

ナジブ氏の退陣を求めるマハティール氏(3月、クアラルンプール)=AP

 「年内に100万人の署名を集める」。マハティール氏は3月末、首都クアラルンプール近郊で声を張り上げた。首相退陣を求める集会。90歳の元首相は最前列中央に陣取り、5時間にわたって中座しなかった。

 マハティール氏は昨年からナジブ批判を強めた。自らが総裁を務めた与党・統一マレー国民組織(UMNO)を離党し、ナジブ氏を相手取って「汚職捜査を妨害した」とする訴訟も起こした。

 ナジブ氏が政府系投資会社「1MDB」から7億ドル(約760億円)近い資金を受け取ったとする疑惑をただす目的というが、執拗な首相攻撃の真意を巡って臆測も呼んでいる。政界関係者らの証言から浮かぶのは「レガシー(政治的な遺産)」の否定への不満だ。

ブログで批判

 「世界は大笑いしている」。マハティール氏は昨年8月、自身のブログにこう記した。汚職疑惑に絡む資金の出所を「匿名の個人献金だ」とかわしたナジブ氏への皮肉だ。海外の反応を持ち出したのは「マレーシアの評判を気にしている」と見る向きが多い。

 マハティール氏は首相在任時に米欧から「独裁者」と嫌われたが、アジア通貨危機を独力で乗り切って批判を封じた。自伝には「小国だと見下されるのは我慢できない」とある。足元でナジブ首相を巡る疑惑は収まらず、同国から資金流出が続く。自らが育てた国の地位低下が「我慢できなくなった」(政治アナリスト)との見立てだ。

 対立の根はもっと深いとの見方もある。野党関係者が指摘するのはマハティール氏の焦りだ。2009年に首相の座に就いたナジブ氏は、元首相の影響下にある事業を相次ぎ縮小した。これに反発したマハティール氏が、資金疑惑を契機に首相攻撃を強めたとの読みだ。

 確執の象徴は国産自動車メーカー「プロトン」だ。同社はマハティール氏肝煎りで1983年に設立し、補助金や税優遇でシェアを高めた。だが足元では販売不振が止まらない。14年に会長に就任したマハティール氏は資金支援を求めたが、ナジブ氏は首を縦に振らない。「製造業への誇りがみられない」。マハティール氏は3月末に会長を退任し、ナジブ政権への不満をこぼした。

 ナジブ首相は同じ時期に政府による超高層ビル起工式に臨んだ。同国で最も高い「ペトロナス・ツインタワー」より約200メートルも高い。マハティール氏が成長の象徴として建てたツインタワーを見下ろす存在となる。

 ナジブ氏がマハティール氏の痕跡を消そうとする背景には2つの要因がある。表面上の理由は成長戦略の相違だ。元首相は発展途上国からの脱皮のために製造業を重視した。ナジブ氏は金融やサービス産業の誘致で先進国入りをうかがう。

影響力恐れる

 もう1つが「恐れ」だ。前任のアブドラ氏はマハティール氏の手で辞任に追い込まれた。国民人気の高いマハティール氏は年齢を重ねても衰えの兆しが見えない。影響力の源泉であるマハティール氏肝煎りの事業を細らせ、自身の地位を守る狙いが透ける。

 足元ではナジブ氏が圧倒的に優勢だ。マハティール氏の支持者を要職から追放し党内の異論を封じた。自身の疑惑に関する報道を許さないため世論は盛り上がらない。マハティール氏が政敵を追い落とす際に使った「独裁」の手法を引き継いだ。

 だが強権が国外にも通じるか。マレーシアは先進国入りを前に成長が鈍化する「中所得国のわな」に直面する。ナジブ氏は外資誘致で成長加速を目指すが、政情の混乱を嫌って企業は進出に二の足を踏む。20世紀後半の成長をけん引した「開発独裁」のひずみがいま噴出する。マハティール氏もナジブ氏も解を持っていないようにみえる。

(シンガポール=吉田渉)



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