真相深層 標的はアルジャズィーラ カタール断交、解除条 件にメディア統制 サウジなど、言論より体制 2017/7/13 本日の 日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の総合面にある「真相深層 標的はアルジャズィーラ カタール断交、解除条件にメディア統制 サウジなど、言論より体制」です。





 サウジアラビアやエジプトなどは6月、同じアラブの小国カタールに断交を通告し、解除の条件として13項目の要求を突きつけた。テロ支援の停止などの要求のうち、唐突に映ったのは同国に拠点を置く衛星テレビ局アルジャズィーラの閉鎖だった。だが過去の経緯を振り返れば、同局の問題こそが対立の中心にあることがわかる。

アルジャズィーラは各地の過激派や反体制派の主張を取り上げる(ドーハにある本社)=ロイター

残る最大の敵

 断交を境にエジプトの新聞やテレビの論調は「反カタール」に一気に傾いた。カタールが過激思想を支持し、テロリストに拠点を提供して我々を攻撃している、と。

 アラブのメディアが政府の意をくんだ報道をすることに驚きはない。国営メディアは当然として、民間も大抵は権力者に近い経営者が支配する。内容は政府の言い分そのものとなりがちだ。

 ところが、アルジャズィーラは例外だった。1996年、カタールの首長家の出資で発足。英BBCなどで経験を積んだ熟練記者が参加したことで他のアラブメディアと一線を画したユニークな番組づくりに成功した。

 カタールの批判は避けたが、アラブ各地の過激派や反体制派の主張を取り上げた。2001年の米同時テロの首謀者ウサマ・ビンラディン容疑者のビデオ声明を衝撃的に放映し、名を博した。

 発足間もない同局をエジプト大統領だったムバラク氏は「小さなマッチ箱」と呼んだ。それが将来、自身の体制を覆す力になるとは想像もしなかっただろう。11年の中東民主化運動「アラブの春」で同局は各地の民衆蜂起を詳細に報じ、チュニジアやエジプトの政権打倒を後押しした。

 権威主義的なアラブの支配者にとって、これは大きな衝撃だった。「春」を生き延びた指導者たちは反体制派を弾圧、批判的なジャーナリストを拘束するなど言論の抑圧装置をフル稼働させた。

 残る最大の敵がアルジャズィーラだった。各国は断交と前後して放送を禁じ、サイトへの接続も遮断した。それでも安心できず、世界への発信そのものを止めようと、局の閉鎖を求めた。

 アラブ指導者の姿は、「新聞なき政府より政府なき新聞を選ぶ」と語った米国の第3代大統領トマス・ジェファソンの対極にある。国際非政府組織(NGO)「国境なき記者団」の報道の自由ランキングでは180カ国中、エジプトが161位、サウジは168位だ。

 疑問がふたつ浮かぶ。強引なメディア統制は機能しているか。そして、それは持続可能なのか。

 アラブ各国に共通するテレビの典型的なコンテンツは、指導者の礼賛と古い白黒映画、毒にも薬にもならないクイズ番組だ。アラブ世界の人口の3割を占める15~29歳の若年層は刺激を求め、インターネット上の情報に頼り始めている。

 そこはフェイクニュースや事実無根の陰謀論、危険思想にあふれる場所でもある。国営テレビの代替メディアがなければ、若者がネットを通じ、テロを扇動する過激主義思想に染まるリスクは高まるかもしれない。

 アルジャズィーラの問題は中東の伝統的なジレンマをはらむ。政治が未成熟なアラブ世界では言論の自由と秩序は両立しないという説だ。

暴発のリスク

 米国の中東政策も「安定」と「民主化」のいずれを重視するか、そのはざまで揺れてきた。トランプ政権は取引外交に傾き、中東の長期的な発展の戦略実行を放棄しているようにすらみえる。

 「アラブの春は自由と尊厳を巡る戦いだった」とカーネギー中東センターのマハ・ヤヒア所長は指摘する。自分や子供の将来を決める権利を命懸けで手にしたい民衆の切望を裏付けたという。

 当時、チュニジアの通りでテレビカメラを前に「カリマティ・フッラ(わたしの言葉は自由)」と歌った歌手エメル・マスルーシさんは、「春」を象徴する歌姫となった。そのメッセージは「当時よりも重要になった」と昨年、居住するパリで記者に語った。

 カタールはアルジャズィーラ閉鎖を受け入れるのは難しいだろうが、同局に報道内容の修正を求める可能性はある。「真実を知りたい」「自分の考えを語りたい」と思う人々の欲求を抑えつけようとすれば、制御不能の暴発のリスクは膨らむ。

(ドバイ=岐部秀光)



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