真相深層 牛肉輸入制限、日本に「買い負け」懸念 裏に米 中対話 2017/8/19 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞のVoice面にある「真相深層 牛肉輸入制限、日本に「買い負け」懸念 裏に米中対話」です。





 日本政府は米国産牛肉の輸入が急増したとして関税を引き上げるセーフガード(緊急輸入制限措置)を14年ぶりに発動した。裏側に潜むきっかけは米中の経済対話だ。米国産牛肉の中国輸出が決まり、価格が上がるとみた国内業者が輸入を急いだ。世界市場で食肉が奪い合いの構図となる中で、セーフガード発動は時代に合った戦略なのか。

画像の拡大

 異変は5月中旬ごろに始まった。この時期を境に突然、米国産牛肉の輸入量が急増したのだ。

 実情を知る政府関係者は「牛丼店などを展開する食品企業が冷凍保存できる米国産の牛肉をまとめ買いしたことがセーフガード発動のきっかけとなった」と明かす。同時期にオーストラリア産牛肉が干ばつの影響で高値で推移した影響もあるが、主な要因は中国が出した1つの計画だ。

 中国は5月11日、BSE(牛海綿状脳症)問題で停止していた米国産牛肉の輸入を14年ぶりに再開する計画を出した。4月上旬に開いた米中首脳会談で米中経済対話の開始と貿易不均衡是正に向けた「100日計画」の履行で合意したことを受けたものだ。牛肉輸入再開は最初の目玉となる。

 「中国の『爆買い』が始まれば価格高騰は避けられない」。警戒した日本の食品企業が米国産牛肉のまとめ買いに走った。その結果として4~6月の輸入量は前年同期比約2割増となった。17%を超えて増えた場合、自動的にガードの対象となる。これまで38.5%だった米国産牛肉の輸入関税は8月から来年3月末まで50%に上昇。すでに米国産の牛バラ肉(冷凍品)の卸価格が上がるなど影響が広がっている。

 牛肉セーフガードは1990年代の貿易自由化交渉ガット・ウルグアイラウンドで、日本が牛肉の輸入関税を下げる代わり、輸入量が急増した場合の緊急措置として認められた。だが、制度開始から20年以上たった今、当時にはなかったリスクをもたらしている。

 「これからは牛肉を輸入したくても中国に買い負ける事態もありうる」。国内の食品事業者からは危惧の声が上がる。

 中国は今や世界有数の牛肉の買い手だ。農林水産省によると、中国の牛肉輸入量は2004年に1万トンだったが、14年には78万トンに拡大。24年には151万トンまで増える見通しだ。一方、日本はすでに中国に抜かれ、50万トン台で推移している。

 これまで牛肉は買い手市場だったが、生産国は強気に転じてきている。

 14年3月に大詰めを迎えた日豪EPA(経済連携協定)交渉。「豪州産の牛肉は中国がいくらでも買ってくれる。日本にわざわざ輸出しなくてもいいんだ」。豪州のジョイス農業相(当時)は牛肉の関税引き下げに慎重な自民党農林族に言い放った。豪州から中国への牛肉輸出は急増している。日本に高い関税を払ってまで輸出する必要はないと主張した。

 問題は牛肉だけにとどまらない。中国は04年に豚肉の輸出国だったが14年には78万トンの輸入国に。24年には128万トンの輸入を見込む。世界の穀物需要量も00年の18.5億トンから25年には28億トンに増える見込みだ。

 今後も日本の農畜産業の競争力を高める政策は必須だが、世界の食糧市場へのアクセスを確保する戦略も必要だ。そこでセーフガードをどう位置づけるか。措置のあり方を巡る政府の検討は進んでいない。斎藤健農相は報道各社のインタビューで、セーフガードをやめる場合「論理的には(通常の)関税を上げなければならない」と語った。

 6月30日、牛肉輸出の再開にともない中国を訪問したパーデュー米農務長官は、中国の農業相との会談でこう中国を持ち上げた。「トランプ政権を代表して中国の積極的な努力に感謝する」

 トランプ政権は貿易赤字の削減を公約に掲げており、その矛先は中国と日本に向いている。中国が牛肉を積極的に買い入れる姿勢をみせる一方で、日本は逆に関税を引き上げてブロックした。今回のセーフガード発動は10月に予定する日米経済対話でも火種になりかねない危うさをはらむ。

(羽田野主、中戸川誠)



コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です