真相深層 統計に映らぬ訪日消費 「個人低迷」でも小売り好決算の謎 節約志向も食品に追い風 2016/04/28 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の総合1面にある「真相深層 統計に映らぬ訪日消費 「個人低迷」でも小売り好決算の謎 節約志向も食品に追い風」です。





 個人消費が低迷しているのに、上場小売業の業績は伸びるという現象が起きている。総務省の家計調査によると、実質消費支出はうるう年の影響を除くと2月まで6カ月連続で前年割れだった。これに対し上場小売業の2016年2月期は1割の経常増益で、違和感もある。方向感が正反対なのはなぜだろう。

 12日、増収増益決算を発表した高島屋。記者会見で木本茂社長の口から漏れたのは逆に弱気な発言だった。「消費者心理は悪化している」。実態は良いのか悪いのか。

 マクロ統計と企業業績の乖離(かいり)の謎を解く鍵は、大きく2つある。一つはインバウンド(訪日客)だ。高島屋の国内百貨店事業は衣料品が落ち込んだ一方、訪日客向けが大きく伸びた。

 観光庁などによると15年の訪日客数は前年比5割増の約2千万人、訪日客の旅行消費額は7割増の約3兆5千億円と、ともに過去最高だった。これは三越伊勢丹ホールディングス、J・フロントリテイリング、高島屋の年商合計にほぼ匹敵する。全国百貨店の訪日客向け売上高は15年に1943億円と前年の2.6倍に増え、売上高全体の3%を占めるに至った。

 インバウンド消費は300兆円の個人消費の1%強に相当する。個人消費を支えてもよさそうだが、ここにからくりがある。インバウンド消費は政府が国内総生産(GDP)を計算する際、輸出に分類され、個人消費には反映されないのだ。15年10~12月期のGDPのうち個人消費は前期比0.9%減り、2四半期ぶりのマイナスになった。

「強者総取り」

 マクロ統計と企業業績のずれを解く鍵のもう一つは「強者総取り」だ。

 経済産業省の商業動態統計によると、15年3月~16年2月の小売業売上高は約140兆円と前年同期比微減だった。この2割程度に当たる上場主要小売り84社の売上高は計28兆円で、逆に7%増えた。非上場の中小や個人商店などが苦戦し、好調なのは上場大企業中心なのがうかがえる。

 強い大企業は大胆な商品戦略やコスト削減を打ちやすい。セブン&アイ・ホールディングスは自主企画商品「セブンプレミアム」のグループ売上高が前期に初めて1兆円を超えた。しまむらは月ごとだった在庫の棚卸しを週ごとに見直し、不採算在庫を減らした。こうした努力も上場企業の好業績を下支えしている。

 マクロ統計にも優勝劣敗は表れている。3月の日銀短観で小売業の景況感を示す業況判断指数(DI)は大企業がプラス18に対し、中小企業はマイナス10と差が開いた。

 上場企業でも好調なのは大都市中心だ。神奈川県藤沢市などの百貨店、さいか屋の岡本洋三社長は「インバウンドの恩恵はない」とこぼす。靴販売大手、エービーシー・マートの野口実社長は「消費は都市部と地方で明確な差がある」という。

 これら以外にも、消費低迷そのものが好決算につながった側面もある。

 食品スーパー大手のライフコーポレーションやイズミの前期決算はともに増収増益だった。実質所得が伸び悩む中で節約志向は根強い。家計調査の消費支出で「被服及び履物」は2月まで7カ月連続で減った半面、「食料」の支出は3カ月連続で増加。限りあるお金を食費に優先的に回す消費者の姿が浮かび上がる。

円高・株安が影

 では、統計と業績の乖離は今後も続くのか。今年度は好調な上場小売業にも逆風が吹きそうだ。

 まず、円高で日本製品の割安感が薄れ、インバウンドが陰る可能性がある。松屋は今期のインバウンド売上高の伸びをゼロ%で計画する。「保守的だが楽観は禁物だ」(秋田正紀社長)。再び株安ともなれば「富裕層の消費に影を落とす」(Jフロントの山本良一社長)。百貨店トップは「高額品が売れなくなってきた」と口をそろえる。

 小売業のアナリストによる業績予想は昨年11月から下がり続けている。JPモルガン証券の村田大郎氏は「消費の減速が続けば、市場予想を下回る企業が出てくる恐れがある」と指摘する。

 消費低迷は今後の決算にじわじわと影を落としそうだ。統計と企業業績がともに減速すれば、今年は乖離が縮小する可能性もある。

(湯浅兼輔)



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