真相深層 ROEは万能か? 政府成長戦略、企業の稼ぐ力 に別指標「ROA」 2017/8/3 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の総合面にある「真相深層 ROEは万能か? 政府成長戦略、企業の稼ぐ力に別指標「ROA」」です。





 政府が6月に公表した成長戦略「未来投資戦略2017」は、企業の稼ぐ力を測るモノサシの一つである「総資産利益率(ROA)」の改善を新目標に掲げた。企業統治改革で重視してきた自己資本利益率(ROE)とは異なる指標が突然目標に据えられ、投資家や企業には戸惑いの声も広がる。ROAを打ち出した真意はどこにあるのか。

面食らう市場

 「あまりに唐突だ」。野村証券の松浦寿雄チーフストラテジストは「大企業のROAは25年までに欧米企業に遜色のない水準を目指す」という成長戦略に新たに盛り込まれた目標に面食らった。

 伊藤邦雄・一橋大学大学院特任教授が座長を務めて14年にまとめ、統治改革の理論的支柱となった「伊藤リポート」の公表以来、日本企業はROEの向上に努めてきた。

 だがROE重視の経営は従業員など他の利害関係者を犠牲にしてでも株主利益を追求する「株主至上主義」に陥りかねないとの批判もある。「政府はROE経営の行き過ぎにブレーキをかけようとしているのでは」。こんな臆測も飛び交った。

 「日本企業の課題は株主に報いる以前に、そもそも事業の収益性が低いことにある。企業の稼ぐ力を測るには、事業全体の収益力に照準を合わせた方がいい」。戦略策定に参加したある政府関係者は、ROAを目標に設定した理由を説明する。

 ROEは、企業の最終的なもうけである純利益を株主が投じた資本と利益の蓄積を合計した自己資本で割って算出する。企業が自己資本をどこまで効率的に使って利益を稼いでいるのかを表す「株主目線」の指標だ。

 一方、ROAは純利益を総資産で割って算出する。総資産とは株主の持ち分である自己資本だけでなく、銀行借入金など他人資本も使って企業が積み上げてきた工場、店舗、在庫、現金などの企業の財産だ。この全ての資産を活用してどこまで企業が効率的に稼いでいるのかを示すのがROAで、事業を行う「従業員目線」に近いとされる。

 ROAとROEには密接な関係があり、ROAに負債の活用度合いを示す「財務レバレッジ」を掛け合わせるとROEになる。このため苦労して利益を増やさなくても、負債を増やしたり、自社株買いや増配で自己資本を減らしたりする財務テクニックでもROEは改善する。中には借り入れで調達したお金で自社株を買い、一気にROEを引き上げる企業もある。

 日本企業は内部留保が厚く、財務レバレッジが低いと思われがちだ。実際は海外企業とほぼ変わらず、問題はROAの低さにある。ROEだけを目標にすると、低収益という最大の問題を覆い隠してしまう恐れがある。

供給過剰の環境

 2%台のROAを欧米並み(4%台)に引き上げるための最大の原動力は事業再編だ。日本企業は投じる資本に見合った収益を上げていなくとも黒字であれば事業縮小や撤退には踏み込まず、供給過剰の事業環境を招いてきたからだ。

 政府はROA目標の設定に合わせ、企業が円滑に再編に動けるよう制度改正で後押しする。4月には事業の切り出しを後押しする「スピンオフ税制」を導入。さらに株式交換によるTOB(株式公開買い付け)の際に、買われる側の株主への譲渡益課税を繰り延べる改正などを議論している。

 有識者会合の座長、小林喜光・三菱ケミカルホールディングス会長は「日本企業は結果として『三方』ともに全然よくなかった」と話す。近江商人の「三方よし」の精神に習い、すべての利害関係者に報いる中長期の経営を目指したつもりでも、利益水準が低いために投資、賃金、納税、株主還元のいずれも満足できる水準ではなかった。

 「利益を出すことに社会の信認が得られる社会に」。有識者会合ではこんな声も出た。日本企業の低収益の背景には企業にも株主にも「もうけ過ぎ」の批判が向かいやすい価値観があり、これを変える必要があるとの問題意識だ。「稼ぐ力」の立て直しをねらうROA目標には、そんなメッセージも込められている。

(編集委員 松崎雄典)



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