砂上の安心網不作為の果てに(1) 既得権サークルの聖域 カネと票、厚労族走らす 2017/6/26 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の第一面にある「砂上の安心網不作為の果てに(1) 既得権サークルの聖域 カネと票、厚労族走らす」です。





 社会保障制度の改革が進まない。社会保障にかける国のお金が膨らむと、新たな票も生み、政治家、官僚、業界の既得権サークルは力を蓄える。ツケを生活者に押しつけてきた改革の不作為を追う。

 7日の参院本会議。遺伝子検査をする病院や検査所に一定数の臨床検査技師の配置を事実上義務づける改正医療法が成立すると、笑みを浮かべる議員がいた。日本臨床衛生検査技師会会長を兼ねる宮島喜文氏だ。

■強固なパイプ

 同法は血液や遺伝子を検査する臨床検査技師の職域を広げるもの。宮島氏が事務局長の自民党議員連盟が成立を主導した。業界の利益拡大が狙いではないか。取材班の問いに「検査の質を高めるためだ」と話した。日本臨床衛生検査技師会は2010年の参院選で自民党から独自候補が初当選。13年は落ちたが、16年に出馬した宮島氏は3年前の7倍の得票で当選した。

 日本医師会など直近2回の参院選比例代表で自民党から出た社保系8団体。参院選で集めた「社会保障票」は01年の約66万票から16年は約92万票に増えた。

 社会保障関係費(当初予算ベース)は01年度の約17兆5千億円から16年度に約31兆9千億円に膨張した。新たな票につながり、厚労族を走らす。

 政府が9日に決めた経済財政運営の基本方針(骨太の方針)。原則自己負担や後発薬価格までの引き下げを含めて検討し、本年末までに結論を得る――。特許切れの新薬と後発薬の価格差を巡り、素案の段階で入っていた記述が抜け落ちた。

 「ここまで踏み込む必要があるのか」。3日前の自民党の政調全体会議。薬剤師出身の渡嘉敷奈緒美・厚生労働部会長が異を唱えると拍手が起こった。

 生活者にとって薬は安い方がよいはず。渡嘉敷氏にぶつけると「業界を発展させ安定した医療を受けられる環境づくりも重要だ」。薬の開発にお金がかかるのは理解できるが、厳しい財政状況の中で、効率よくできる部分はないものか。

 医師会の政治力も健在だ。骨太の素案に盛りこまれた医師の業務を看護師に移す「タスク・シフティング」の推進。地域ごとの医師不足に対応するためだが「十分議論を行った上で」との一文が加わった。

■「安さより命」

 動いたのは元医師会副会長の羽生田俊・参院厚生労働委員長。看護師の力を借りた方が効率的な医療になるとの取材班の疑問に「医療行為は命にかかわる。安く済むという発想はなじまない」との答えが返ってきた。ここでも財政事情より「命」という命題に突き当たるが、看護師ができる部分はないか議論は必要だ。

 菅義偉官房長官は周囲に「社保改革を数年かけて全力でやる」と語るが、既得権サークルの壁は厚い。聖域を崩せるのは、長期政権をうかがえる政治資産を持つ安倍晋三首相しかいない。



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