砂上の安心網 ゆがむ分配(2) 生活保護つけ込む「貧困 ビジネス」 不正受給は闇の中 2017/2/18 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の第一面にある「砂上の安心網 ゆがむ分配(2) 生活保護つけ込む「貧困ビジネス」 不正受給は闇の中」です。





 その40代の男性は毎月10日ごろ都内の薬局に姿を現す。「蓋を開けるな。箱が汚れているのはやめてくれ」。1月は耳鼻科や眼科など処方箋を6枚示して8万2990円相当の薬を持ち帰った。生活保護を受給する男性の支払いは免除だ。

■「転売目的か」

 「1カ月で使い切れる量ではないのに」と店員はいつも違和感を覚えつつ薬を提供する。取材班が目にした1枚の処方箋には異様な量の点眼薬が並んでいた。毎月ほぼ同じ量の薬が処方されるという。

 外見にこだわるのは「転売目的だから」と店主はにらむ。自己負担ゼロで仕入れた薬をインターネットや露店で売りさばくのはもちろん違法だ。大量の薬が処方される受給者は計5人ほどいるという。

 なぜこんな大量の処方箋がまかり通るのか。処方箋を出した病院に薬局店主が尋ねたことがある。「断りたいが暴れる恐れがある」。医師の弁解を店主から聞いて思わずため息が出た。

40代の生活保護受給者が一度に受け取る大量の薬。転売目的の疑いがある(都内の調剤薬局)

 生活保護の受給者は国・自治体から生活費を受け取り、必要な医療は無料で受けられる。国民の最低限度の生活を保障する大事な制度だ。高齢化などで公的な支えを必要とする人は増えるばかり。無駄を生まない運用が欠かせないはずなのに、現場で目にする光景はどうもおかしい。

 「おなかすいていませんか」。東京都の上野公園や新宿中央公園のホームレスに甘い言葉でささやきかける人たちがいる。ホームレスを粗末な施設に囲い込み、生活保護を申請させる。そして毎月の支給日に入所者をバスで役所に運び、帰りの車中で給付金を回収する――。生活保護を搾取する「貧困ビジネス」だ。

 さいたま市や川口市に施設をもつ宗教法人が最近、不適切な金銭管理で行政処分を受けた。取材班が話を聞いた60代の元入居者は、ケガで日雇いの仕事ができなくなった直後の雨の日に「来ないか」と誘われたという。月12万4790円の生活保護費から3畳半の部屋代や食費として9万3千円を払った。残りは昼食やたばこ代に消え、昨年退所したとき手元にあったのはたったの180円だった。

■足りぬ点検の目

 厚生労働省によると生活保護の不正受給は2015年度で4万3938件、総額170億円弱に達した。薬の転売や貧困ビジネスの全容は国もつかめていない。全体像がわからないから余計深刻なように思える。

 貧困ビジネスに詳しい日本福祉大の山田壮志郎准教授は「不正が解消できない原因に受給者と現場で接するケースワーカーの不足がある」と言う。「悪徳業者の施設だとわかっても受給者が集団でいてくれると楽」(首都圏のケースワーカー)という声も聞いた。

 全額公費だから誰の懐も痛まず、改革機運はなかなか盛り上がらない。政府は近く生活保護制度の点検に乗り出すが、果たして妙案は見つかるのだろうか。



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