砂上の安心網 未来との摩擦(4) 健康経営、企業は孤軍 医療費圧縮は国こそ必要 2017/10/15 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の総合面にある「砂上の安心網 未来との摩擦(4) 健康経営、企業は孤軍 医療費圧縮は国こそ必要」です。





 花王が売上高や自己資本利益率(ROE)など、2030年の目標に向けて地道に進めている施策がある。社員、家族の健康づくりだ。社員一人ひとりが能力をフルに発揮できる「健康経営」が、企業の競争力を左右する日がやってくる。

■生産性を高める

健康に配慮した特別メニューを提供し社員の労働生産性を高める(花王の社員食堂)

 最前線を確かめようと、取材班は花王の社員食堂を訪れた。焼きジャケのとろろご飯、カブのステーキ――。副菜を含め680キロカロリーの特別メニューを食べてみたら、しっかりした味付けで満腹感も得られた。東京急行電鉄が昨年新設したのは最高健康責任者(CHO)。就任した巴政雄副社長は「年3回の職場対抗ウオーキング大会や、がん検診などを始めた」という。

 理念が先行しがちな健康経営も、未来ではIT(情報技術)や設備投資を伴うまでに深化する。すでに伊藤忠商事は生活習慣病予備軍の若手社員向けにウエアラブル端末などを使って特別プログラムを展開。食生活に配慮した独身寮の新設にも乗り出した。

 こうした変化を真っ先にかぎ取ったのは金融市場だ。コモンズ投信の伊井哲朗社長は「30年先までの投資を見据えると、従業員を大切にする企業ほど外部環境の変化に順応し、成長に結び付きやすい」と話す。

 経済産業省と東京証券取引所が17年、健康経営に意欲的として公表したのは花王や伊藤忠のほかデンソー、東京ガス、日本航空など24社。岡三証券によると24社の株価は過去10年で年率換算にして8.7%上昇。市場平均を約7ポイント上回る。

 カルビーの松本晃会長兼最高経営責任者(CEO)は「健康経営は労働生産性を高めるための投資。コストではない」と話す。

 ただ、いくら企業が社員や家族の病気予防につなげようとしても、国全体の医療費から見れば焼け石に水だ。公的な医療保険で賄う約42兆円の医療費のうち、大企業の社員、家族らが加入する企業健保の医療費は5兆円に満たない。これに対し75歳以上の後期高齢者分は約15兆円に達する。

■企業健保にツケ

 企業健保は後期高齢者などの赤字分を埋めるため多額の拠出金を求められ、財政が悪化している。加入者より、ほかの高齢者の医療に使う分の方が大きい健保は4分の1。健康保険組合連合会によると、団塊世代が75歳を迎える25年には、この比率が6割を超える。

 政府は各保険の負担割合を保険加入者数ではなく、加入者の平均収入に応じて決める仕組みを広げてきた。健康経営で稼ぐ力が高まった企業ほど負担が増すジレンマも潜む。企業再生を手掛ける経営共創基盤の冨山和彦CEOは「大企業は強いから負担させよう、弱い中小企業は守ろうという政策は、かえって企業の生産性を落とす」と話す。

 国や自治体が高齢者医療などを抜本的に見直さなければ、健康経営が広がっても不公平な負担と「底が抜けたバケツ財政」は続く。(この項おわり)



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