砂上の安心網 2030年不都合な未来(2) 超高額薬時代の序章 、「革命」に揺らぐ皆保険 2016/12/20 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の総合面にある「超高額薬時代の序章、「革命」に揺らぐ皆保険 2030年不都合な未来(2)」です。





 人生が暗転した。肺にある腫瘍が脳にも転移し、主治医から事実上、余命6カ月だと告げられた。栃木県真岡市の医師、橋本紳一さん(57)のがんとの闘いは2010年3月から始まった。強力な抗がん剤治療を始め、味覚障害や手足のしびれ、脱毛が襲った。

■薬剤費年3500万円

3度の抗がん剤治療のすえ、今年3月からオプジーボを使い始めた橋本さん(栃木県真岡市)

 生きるための耐えがたい苦しみ。最期まで闘い続けると誓った激烈な副作用から橋本さんを救ったのが新薬「オプジーボ」だった。

 今春から投与を始めると、まず水を飲んでも歯を磨いても起きる強烈な吐き気が消えた。体調は大幅に改善し、「外食も楽しめる」と橋本さんは喜ぶ。

 がん治療の「革命」――。オプジーボをはじめとするがん免疫療法に対し、世界中の研究者や医師が口をそろえる。現時点で全ての患者に効果があるわけではないが、一部の末期患者でがん細胞がほぼ消失する画期的な結果が出ている。

 だが良いことばかりではない。「月300万円近くかかります」。3月にオプジーボを使い始めた福岡市の会社員、大西順平さん(仮名、67)は耳を疑った。

 オプジーボは100ミリグラムで73万円。体重60キログラムの患者が1年間使うと薬剤費は約3500万円になる。世間の批判もあり、薬価改定の時期を待たずに異例の大幅値下げが決まった。

■誰も想定せず

 「オプジーボのような薬の登場に制度が合わなくなったのではないか」。販売元の小野薬品工業の相良暁社長は11月の決算会見でこぼした。製薬会社には多額の研究開発費を回収しなければ新薬を生み出せないという不満が広がる。

 超高額薬はオプジーボだけではない。米ファイザーの「パルボシクリブ」、米ジョンソン&ジョンソングループの「ダラツムマブ」なども米国で月100万円以上かかる抗がん剤だ。国立がん研究センターによると30品目以上の米国発の「第2、第3のオプジーボ」が上陸する可能性がある。

 国民皆保険制度が発足したのは1961年。超高額薬の登場を誰も想定していなかった。当時、最も深刻な病気は結核などの感染症で、薬も安く造れた。

 超高額薬も月数万円程度からの自己負担で利用できるのが日本の医療制度だ。大西さんは「多額の税金を使い申し訳ない」と話す。生きたいという欲求と、それに応える薬や技術の開発を止めることはできない。

 薬も自助の領域を広げる余地がある。目の乾きを補う目薬、下痢止めなど4種類6成分について、健康保険組合連合会は病院や薬局で医療保険での処方をやめた場合の試算をした。保険給付の削減効果は約1500億円。いずれも類似の効能を持つ大衆薬がある。

 オプジーボはやがてやって来る超高額薬時代の入り口にすぎない。どんな薬でも等しく税や社会保険料を使い続けるのか、財政を守るために何らかの歯止めを設けるのか。「世界に冠たる」皆保険を巡り、厳しい選択を迫られる時が来る。



コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です