移住者ひき付ける小笠原諸島職あり、しがらみなし 2018/07/01 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の「移住者ひき付ける小笠原諸島職あり、しがらみなし(ドキュメント日本)」です。





小笠原諸島(東京都小笠原村)が米国から返還されて50年を迎えた。都心までフェリーで24時間。決して「アクセス至便」とはいえない離島の人口が全国的にも顕著な増加傾向を示している。若い世代を中心に多くの人が移住し、子供を生み育てる。人口減に悩む地方へのヒントがあるかもしれない――。島の暮らしを訪ねた。

2011年に父島へ移り住んだ井上佑太さん(33)は山梨県出身の元美容師だ。島で出会った妻(28)、保育園児の長男(6)、次男(5)と2Kのアパートで暮らす。

勤め先は自宅から自転車で2分の造園会社。午前7時前に出勤し、島内の歩道の草刈りなどの現場に出る。終業は午後5時で、時間外勤務はほとんどない。2時間の昼休みには保育園に子供を迎えに行き、海で一泳ぎすることもある。

月収は手取りで約18万円。輸送費が上乗せされた月7万~8万円の食費は負担だが介護施設で働く妻の収入を含めれば暮らしには困らない。井上さんは「終電近くまで働いた美容師時代より生活は充実している」と話す。

島にある掲示板には「売店のアルバイト時給1200円」「図書係のパート募集。週5回」など求人のビラが目立つ。

都小笠原支庁によると、父島と母島の就業者は計1656人(15年)で、宿泊業・飲食サービス業に携わるのはこのうちの225人。都の関係者は「求人数は内地と遜色がない。仕事を掛け持ちして生計を立てる住民が多い」。世界自然遺産登録後は外来種駆除など環境保全の仕事も増えた。

戦時中の1944年、小笠原諸島の住民約7700人は軍属を除き本土に強制疎開。日本に復帰した68年6月の住民数は181人とされるが、相次ぐ移住で父島、母島の人口は90年時点で約2千人に。出生率も高く、18年6月の住民数は2629人に達した。

子供たちは海で遊び、不審者や交通事故の心配も少ない。育児にはもってこいの環境だ。「地縁がない移住者が多く、新たな住民を温かく歓迎する土壌がある」。子供2人の母の矢嶋和歌子さん(48)は子育て世代が根付く理由を明かす。

人口の増加で島には新しい課題も。小笠原小(父島)の児童数は過去最多の169人。5年生は上限30人の教室に36人が机を並べている。家庭科の実習はクラスを二分して行う。島村雄次郎副校長は「児童数は学校の限界を超えている」。

宅地に適した土地は少なく、割安な都営住宅は慢性的に入居希望者が募集枠を大きく上回る。ある村幹部が胸中の危機感を明かす。「人口が増え続けたら、高層住宅を建てないと住まいを確保できない」。村は移住者を含めて「人口3千人」を目標としてきたが、14年、「自然と共生する暮らしを続けるために急激な人口増は望ましくない」との立場に転じた。

恵まれた子育て環境と十分な雇用が島に人口再生産の循環をもたらす。ただ、人が増えることは減るのと同じく難しい問題を伴う。島の現状が改めて教えてくれた。

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離島全体では人口減少続く

国土交通省によると、北海道と本州、四国、九州、沖縄本島を除く離島は全国に6847島あり、93%が無人島。人が暮らす島のうち生活や産業の基盤整備を支援する「離島振興法」などの対象は約300島ある。

日本離島センター(東京・千代田)の離島統計年報によると、対象の島には1995年時点で約81万人が暮らしていた。全体の人口は減少し続けており、2015年時点で95年比24%減の約61万人まで落ち込んだ。

ただ、農林水産業の従事者に1家族当たり1日最大1万円を期限つきで支給する鹿児島県十島村や、小中学生の離島留学を受け入れる新潟県粟島浦村など、一部の離島では人口が増えている。

同センターの小島愛之助専務理事は「就労支援に力を入れ、活気がある離島には移住者が暮らしやすい環境がある。地域ぐるみの取り組みが新しい住民を呼ぶカギとなる」と指摘する。

(桜田優樹)



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