税金考 気になる光景(4) 徴収ミス700人に1人 「税インフラ」世界122位 2015/08/01 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の1面にある「税金考 気になる光景(4) 徴収ミス700人に1人 「税インフラ」世界122位」です。





 東京都心部から車で約1時間余り。埼玉県新座市の一角にある2階建ての一軒家は表札だけが真新しかった。

 配管工とパートの妻が約30年住んでいたが、2013年10月に固定資産税などの滞納を理由に公売にかけられたためだ。公売から4カ月後の昨年2月、事態は意外な方向に動く。「ここの固定資産税高すぎませんか?」。家を競り落とした不動産業者から市の資産税課に電話があった。

評価額4倍強

 この業者が登記簿を見直したところ、土地が本来の「小規模宅地」ではなく評価額が4倍強の「非住宅用地」になっていた。市は取り過ぎた固定資産税200万円強に利息をつけて還付したものの、家は他人が住み始めている。配管工の夫婦は今、新座市内のアパートに住む。

 マイホームや工場設備にかかる固定資産税収は年8.5兆円。総務省の調査によると、納税義務を負う約6253万人(法人含む)のうち11年度に約8万9千人で徴収ミスがあった。ざっと700人に1人の割合だ。固定資産税は自治体が税額を独自に算定して支払いを求める。複雑で難解な計算式は納税者にはほぼ理解不能で、当局のミスが長期間是正されないままの事例が多い。

 消費税率はいつ上げるべきか。法人税率は高すぎるのではないか。政府内の税を巡る議論は財政難をふまえ税制をどう改めるかに集中しがちだ。だが、税金の現場を歩くと、そうした議論がむなしく思える場面に度々出くわす。

 「まだ本社の帳簿もできあがってないのに、どうやって税務申告しろって言うんだ」。今年2月末の深夜。大手税理士法人PwCの鬼頭朱実氏(52)に国際電話が入った。

18年遅れの改革

 相手は日本に支店を出して間もないドイツの金融機関の本社。ドイツの税法では法人税の申告は事業年度終了日から5カ月以内。だが日本では事業年度終了日から2カ月以内だ。グローバルに展開する企業では日本で帳簿の内容を試算しいったん納税してから修正申告する二度手間が常態となっている。

 申告までの期限が短いのに納税者の負担を減らす策は後手に回っている。米国では1997年から内国歳入庁が文書の電子保存と紙の廃棄を認めているが、日本で3万円以上の高額領収書でもスキャナー保存が認められるのは今年9月から。18年遅れの改革だ。

 企業が活動しやすい国を調べた世界銀行の最新調査によると、日本の総合順位は189カ国・地域中29位。内訳を調べると「税の支払い」の分野が中米の小国コスタリカに次ぐ122位で総合順位を大きく引き下げていた。

 正しい税額を納税者に手間をかけずにきちんと徴収する。そんな「税インフラ」が機能しなければ、家計や企業の日々の営みに思わぬ影響が及び国の評価も揺らぐ。経済活動の基盤となる税インフラの再生は、日本の税制を語る前提条件のような気がする。

「棚卸し」怠ったツケ 複雑な税制、ミス誘発

 固定資産税の取り過ぎや取り漏れが相次いでいる。市町村の徴税担当者の計算ミスが多いが、原因はそれだけだろうか。

 長年の徴収ミスが明らかになった埼玉県新座市の担当者は「確認が足りず反省している」としつつも、「制度がとても複雑で職員が慣れるのに時間がかかる」と言う。同市が適用し損ねた小規模住宅用地への減税は地方税法349条に規定する。固定資産税はこうした特例が多い。地価が急上昇したときの負担の緩和や耐震性を条件にした家屋の税金の引き下げといった優遇措置が目白押しだ。

 地方税法の法令集で固定資産税の本則は約80ページ。このうち約20ページは非課税や減税に関する規定が占める。さらに付則にも約80ページを割いて期間限定の非課税や減税措置を載せている。例外が多い分、適用の判定や確認に当たる職員の作業は煩雑になる。

 さらに複雑なのは家屋の評価額を決めるときだ。屋根は金属製か樹脂製か、瓦のグレードは上・中・並のどれか、外壁はタイルか板張りか……。総務省の課税基準は建材の種類を細かく調べ、それぞれに応じた評価額を付けるよう求める。

 税制には「簡素たるべし」という原則がある。東京都主税局は固定資産税をわかりやすい仕組みに見直すよう政府に求めてきたが、特例廃止への政治的な反発も強い。時代の変化に応じた税制の「棚卸し」を怠ってきた結果、制度が複雑になり現場のミスを誘発している。



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