米国が早める「偉大な中国」本社コメンテーター秋田浩之 2017/11/24 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞のオピニオン面にある「米国が早める「偉大な中国」本社コメンテーター秋田浩之」です。





 米国を再び、偉大にしてみせる。トランプ米大統領はこう豪語する。だが、このままいけば、彼は米国ではなく、中国が「偉大な国家」になるのを助けることになってしまう危険がある。

 そんな予兆を漂わせたのが、11月5~14日のアジアへの旅だ。北朝鮮問題では日米韓の連携を締め直し、中国から改めて協力を取りつけることに成功した。

 この旅にはさらに大切な目標があった。アジア太平洋地域で中国主導の秩序が生まれないよう、米国の影響力を立て直すことだ。

 残念ながら、こちらでは成果どころか、トランプ氏の限界があらわになった。最大の注目点だったアジア戦略に関する演説が、不成功に終わってしまったからだ。

 なぜそうなったのか。米政権の舞台裏に光を当てながら、今後、トランプ氏に世界はどう向き合えばよいのか、考えてみたい。

 アジア歴訪を控えた10月半ば、米ホワイトハウスで極めて重要な出来事があった。どんな包括戦略でアジア太平洋に関与するのか。このテーマに特化した初の閣僚級の国家安全保障会議(NSC)がひそかに開かれたのだという。

 マクマスター大統領補佐官やマティス国防長官、ティラーソン国務長官らも交えた議論の末、「自由で開かれたインド太平洋」戦略をアジア外交の中核とし、推し進めていくことを申し合わせた。

 その後、詳しい説明を受けたトランプ氏も、これを米政権の看板戦略にすると決定。11月10日にベトナム・ダナンで演説し、大々的に発表することにした。

 この戦略は太平洋からインド洋にまたがる地域に「法の支配」と市場経済を根づかせるため、賛同する国々と経済、安全保障の両面で協力を深めようというものだ。昨年8月に安倍政権が提唱した構想にトランプ政権が乗った。

 この地域では中国もインフラを整え、独自の経済圏「一帯一路」を築こうとしている。これに対し、日米豪印などが主導して自由な秩序をつくろうというわけだ。

 トランプ政権は1月の発足後、アジア政策の全体像を示せないままでいた。ダナン演説はこうした局面をがらりと転換し、インド太平洋戦略を世界に打ち上げる跳躍台になるはずだった。

 しかし、ふたを開けてみると、演説は各国を拍子抜けさせた。「自由で開かれたインド太平洋の夢を、皆さんと共有したい」。前半でこう呼びかけたまでは良かったが、後半は米国第一主義のオンパレードになったからだ。

 米国を縛る多国間協定には加わらない。そう宣言したうえで「私はいつも、米国を第一に考える」と断言。公正で互恵的な通商に応じる国に限って、2国間の貿易協定を結んでいくと強調した。

 トランプ氏は14日、日中ロや東南アジア諸国連合(ASEAN)など18カ国が集う東アジア首脳会議も欠席し、帰国した。開始が2時間近く遅れたためだ。

 「トランプ氏はやはり、アジア外交でも国内最優先を押し通すつもりなのだ」。東南アジアの当局者からは、米国は頼りにならないという声が漏れた。

 こうしたなか、11月16日、21日にそれぞれ公表されたASEAN首脳会議と東アジア首脳会議の議長声明も、中国に半ば、屈した内容になった。中国が南シナ海で軍事拠点を築いている問題について、ASEANは昨年より批判の表現を和らげてしまったのだ。

 この流れが続けば、米国主導のアジア秩序が退き、中国による秩序がこの地域を染めかねない。

 なぜトランプ氏の歴訪はこんな結末になったのか。2つの仮説が考えられる。第1は彼がインド太平洋戦略にさほど関心がないか、あったとしても、中国に遠慮して演説の歯切れが悪くなってしまったという説だ。第2は、国内のトランプ支持者を喜ばせるため、あえて米国最優先の通商方針を強調したという説である。

 このうち、前者の要素はゼロではないにしても、決定的ではないように思える。トランプ氏は安倍晋三首相からもインド太平洋戦略の説明を受けており、その意義は十分、頭に入っていたらしい。

 対中配慮はあったとしても、重要演説を弱めてまで、機嫌をとるほどではないと思う。トランプ氏は習近平(シー・ジンピン)国家主席を「偉大なリーダー」と称賛してやまないが、中国観は険しくなっている。「彼は大したやつだが、中国という国家は問題が多い」。トランプ氏はしばしば、周辺にこう漏らすという。

 こう考えると、第2の仮説が正しいとみるべきだろう。つまり、外遊先でも彼の頭の多くが内政で占められているということだ。

 アジア歴訪中、米国内ではトランプ氏を悩ます事態が続いた。米大手紙の世論調査で支持率が最低の37%に下落。バージニア州知事選は共和党候補が大敗した。目玉公約の減税法案も正念場だ。

 共和党支持者の約8割がなおトランプ氏を支持しているとはいえ、この岩盤を崩さないためにも、トランプ氏は外遊先で「米国最優先」を唱えざるを得ないのだ。

 来年秋の米中間選挙に向け、その傾向は強まるだろう。「米国第一」の公約は果たせるだろうが、同時に「偉大な中国」の実現を早めることにもなりかねない。

 トランプ政権が国内に引きこもらないよう、アジア各国は働きかけを強めるしかない。トランプ氏の「親友」であり、インド太平洋戦略を発案した安倍氏の役割は、さらに重くなる。



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