経営の視点 サラリーマン共同体の限界 トップ指名にも「社内事情」 編集委員 渋谷高弘 2016/06/20 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の企業面にある「経営の視点 サラリーマン共同体の限界 トップ指名にも「社内事情」 編集委員 渋谷高弘」です。





 「彼我の経営者の力量が違いすぎる。このままではダメだ」。長く日本の大企業の株主総会を仕切り、企業法務の重鎮とされる大物弁護士は嘆く。

 比較の対象は、燃費データの不正で危機に陥った三菱自動車を電撃的に傘下に収めた日産自動車のカルロル・ゴーン社長と、それまで大株主として三菱自を支えてきた三菱グループ御三家(三菱重工業、三菱商事、三菱東京UFJ銀行)だ。

 実は大物弁護士の元には御三家の一つから「三菱自が設けた第三者委員会の調査をどう進めるべきか、相談に乗ってほしい」と内々に打診があった。不祥事発覚から約一週間後だ。

 ところがさらに一週間経たないうちに、ゴーン社長が三菱自の支援を表明。大物弁護士が御三家の相談に乗る暇もなく、局面は三菱自や企業城下町の危機という「負」から、業界再編という「正」へと劇的に変わった。経営者の力量が経済や社会を大きく動かすことを示す好例といえよう。

 冷静に考えれば、日産は仏ルノー傘下の外資系企業だ。ゴーン社長は、ルノーがかつて破綻寸前だった日産に送り込んできた外部のプロ経営者だったことを忘れてはならない。

 三菱自、東芝、シャープ、東洋ゴム工業……。大企業の経営危機や深刻な不祥事が繰り返されるのはなぜだろうか。

 企業統治改革の要とされるトップの選び方に着目してみよう。上場会社であっても大多数の日本企業は現社長が内部から次期社長を選ぶ。「そこにサラリーマン共同体の論理が働きやすいことが問題だ」。多くの経営者を知るコンサルタントの冨山和彦氏は断じる。

 彼のいう「サラリーマン共同体の論理」とは、部下は上司に尽くし、上司は尽くしてくれた部下を引き上げる相互依存関係が基本だ。そうである以上、後継者選びでも、経営能力だけでなく、現トップとの距離感や価値観の重なりといった要素が、判断材料に加わることは避けられない。

 トップのみによる後継者指名の偏向を修正できる仕組みの一つが、社外取締役が参加する指名委員会だ。社内事情とは無縁の社外取と現トップが後継者について率直に議論することで、会社全体、あるいは社会にとって有益な後継者選びができる可能性が増す。

 冨山氏は複数の大企業経営者から聞かされたことがある。「(サラリーマン共同体の論理で選ばれた)社長なんて、大した能力はない。だからこそ次の社長を指名する権限が必要だ。その権限を失ってしまったら、求心力もなくなってしまう」

 この“激白”は日本企業でも指名委員会を設けてトップ選びに外部の声を反映させる動きが出ていることへのけん制だ。後継者指名権こそが日本の経営者の力の源泉であり、それが変わることを恐れるのだろう。

 もちろん社外取締役が選ぶトップも万能ではない。サラリーマン共同体にはチームワークを促すなど美点もある。ただトップ選びに、その論理を貫徹し続けることは企業の存在や競争力を危機にさらしかねない。日本企業はサラリーマン共同体の賞味期限を考え直すべき時期に来ている。



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