経営の視点 観光業に広がる国内格差 訪日客特需を改革に生かせ 編集委員 宮内禎一 2015/10/26 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の企業面にある「経営の視点 観光業に広がる国内格差 訪日客特需を改革に生かせ 編集委員 宮内禎一」です。





 今年訪れた北関東と東海地方の温泉地は大都市から電車で1~2時間なのに、廃虚と化したホテルが何軒もあり旅行気分に水をさされた。政府が観光立国を打ち出し、訪日客(インバウンド)増加で東京や大阪ではホテル不足も顕在化する中、この落差は何だろう。

 「そもそも観光立国=インバウンドという見方が問題」。各地で高級旅館・ホテルを展開する星野リゾートの星野佳路代表は指摘する。インバウンドが急増した今年1~6月(速報値)で見ても、消費額の86%は日本人が占めている。

 だが日本人1人当たり国内宿泊観光数は人口減少や若者の旅行離れで06年の1.7回から14年には1.3回に減っている。観光庁の推計では2014年は外国人の旅行消費額が約6100億円増えたのに対し、日本人の国内旅行消費額が約1兆6400億円減少して全体ではマイナスだった。

 経済同友会の14年度観光立国委員会(委員長・星野氏)の提言は、20年に2000万人というインバウンド数のみを目標とせず、「人口減少に直面する地方に新たな雇用を生み、投資を呼び込み、地域密着型産業として地域活性化に貢献している国」こそが真の観光立国と位置づけた。

 提言によると飲食・宿泊業の労働生産性は米国を100とすると、日本は26.5。日本の非製造業全体の53.9と比べても低い。そもそも競争力に問題を抱えているのだ。ゴールデンウイークや夏休みで稼いで閑散期は施設が遊休化する旧態依然の現状が、低い労働生産性や75%が非正規雇用という状態を招き、長期投資につながらない。

 せっかくのインバウンドを起爆剤にできないか。

 現状では外国人延べ宿泊数は3分の2が関東と関西に集中し、地方に十分波及していない。矢ケ崎紀子・東洋大准教授は「その土地ならではのものを編集してストーリーとして伝える努力が足りない。インバウンド需要は旧来のやり方を改め経営を近代化するチャンス」とみる。

 旅行会社と旅館・ホテルは協定旅館制度で持ちつ持たれつの関係にある。繁忙期は難しくても、閑散期なら独自にインバウンドを取り込みやすい。若手経営者らが海外からの予約をインターネットで受けるなどの努力を始めれば、集客を平準化して収益が向上。金融機関も融資に踏み切って設備投資でき雇用環境も改善する好循環も期待できる。

 廃虚が残るままでは日本人も外国人も再び足を運びにくい。観光地にふさわしいイメージ作りも必要だ。

 星野リゾートは買収した施設の改修や新設で「界」ブランドの温泉旅館を熱海や鬼怒川など各地に広げる。星野氏は「日本の温泉地は意外に似ている。私ができるのはその地域らしさをしっかり反映した温泉宿をつくっていくこと」と語る。

 兵庫県豊岡市の城崎温泉は浴衣を着て外湯を巡る街歩きができる温泉地として差異化を図り、外国人客にも好評だ。食材を提供する農林水産業を含めて裾野が広い観光産業は、地方創生の主役になる力を持っている。インバウンド特需を一時的、局所的なものに終わらせないためにも動くべき時が来ている。



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