経営の視点 TPP、アジアに広がるか 「仲間はずれ」のさじ加減 編集委員 太田泰彦 2015/08/24 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の企業面にある「経営の視点 TPP、アジアに広がるか 「仲間はずれ」のさじ加減 編集委員 太田泰彦」です。

TPPによって生産最適の考え方が変化することを予感させる記事です。





 環太平洋経済連携協定(TPP)交渉が土壇場で迷走している。7月末のハワイ閣僚会合は物別れに終わった。決着を阻んだ争点は、表面的には農業分野の乳製品の扱い。だが実際には、明日の日本経済の姿を左右する、より重大な論点が水面下に潜んでいる。

 TPPの分かれ道は交渉に参加していないタイにある。通商政策を仕切るアピラディ商業相は先週、「TPPの体制がしっかり確立するかどうか急がずに見守る」と言明。今まで検討してきたTPP加盟を保留する方針を明らかにした。ハワイ会合の失敗を受けての冷めた判断である。

 なぜタイが重要か。東南アジア諸国連合(ASEAN)の中で、バンコク一帯は日本メーカーが最も多く集積する製造業の一大拠点だからだ。日本の製造業を支える部品・材料のサプライチェーン(供給網)はタイ抜きでは回らない。

 今すぐには無理でも、タイを含めてTPP経済圏をやがて地域全体に広げたい。これが日本にとり死活的な課題である。築いてきた調達網を丸ごと仲間の輪の中に取り込まなければ、加盟国だけに与えられる貿易の優遇措置を使えない。タイがTPPに興味を失えば、困るのは日本なのだ。

 たとえば自動車産業の例を見てみよう。日本から米国に輸出する場合、完成車に組み込む部品・材料の“出身地”が問題になる。日本国内やマレーシア、ベトナムなどTPP参加国から多く調達すれば、この車は「TPP産」と認定され、関税撤廃の対象となる。

 ところが、タイや韓国、中国など「非TPP国」から調達した部品の比率が高いと、その車は「TPP産」とはみなされない。適用される米国の関税率は高いままだ。これが「原産地規則」と呼ばれる、仲間と仲間以外を区別する貿易協定の独特のルールである。

 トヨタ自動車など国内調達の比率が高いメーカーは厳しい条件でもクリアできるだろう。逆に仏ルノーとの部品共通化で、積極的に海外で調達先を多角化してきた日産自動車などは、苦しい立場に追い込まれる。

 ここに根源的なジレンマが浮上する。原産地規則によって域内調達する部品の比率を高くすべきか。それとも低くすべきか。

 高い比率を課せば、壁の内側に戻ろうとして製造業の国内回帰が進むかもしれない。他方、既にアジア全域に張りめぐらされた日系企業の調達網がTPPによって分断されかねない。どちらが長い目で見て日本の国益にかなうのか……。

 忘れてならない視点は、タイなど未加盟のアジア諸国に対し、TPPをいかに魅力的に見せるかである。タイの製造業の集積が、日系企業の競争力の源泉であるのは間違いない。加盟すれば得をする、言い換えれば、加盟しないと損をするような仕組みを築かない限り、自由貿易の仲間の輪は広がっていかない。

 有志国による戦略的な自由貿易協定とは、そもそも本質的に排他的で差別的な「意地悪な政策」なのだ。原産地規則は、タイが仲間外れを恐れ、参加を切望するようなさじ加減が望ましい。各企業はどんな要望を政府に伝えているだろうか。

(シンガポール)



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