経済教室 アジア投資銀の行方(下) 国際秩序に中国取り込め 河合正弘 東京大学特任教授 2015/05/01 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の経済教室面にある「アジア投資銀の行方(下) 国際秩序に中国取り込め 河合正弘 東京大学特任教授」です。

AIIBへの日本の参加については、賛否両論がありますが、今回は賛成論です。内部でイニチアチブを持って秩序誘導するべき、という意見です。

AIIBという枠組みではなく、通常の国際社会の中で、中国は経済力を背景に、自らの論理を振りかざすシーンが目立ちます。それに対して、国際社会が有効な手立てを持っていないのが現状です。AIIBはアジアの国々がその他の地域の国々に比べて優位性があること、その上で更に出資額基準が存在します。要するに、中国のイニシアチブが絶対です。中国との関係性を維持したいために参加するAIIB、その中で中国と異なる方向のイニシアチブを持とうとする発想そのものが甘い、このように感じます。





 中国主導でつくられるアジアインフラ投資銀行(AIIB)の創設メンバー57カ国が確定した。日米は参加を見送ったが、英国、ドイツ、フランス、イタリアなどアジア域外からも多数の諸国が加わった。6月末までに設立協定を結び、年内設立をめざす。資本金は最終的には1千億ドルとし、出資比率や議決権の配分は各国の経済規模に応じて決まる。中国が最大の出資国となり、本部は北京、初代総裁ポストも中国が握るとされる。

 米国は自らが主導してきた国際通貨基金(IMF)や世界銀行を軸にした国際金融秩序に中国が挑戦していると受け止めている。歴代総裁をアジア開発銀行(ADB)に送ってきた日本も、AIIBの設立に戸惑いを示している。

 世界金融危機を契機に、主要7カ国(G7)だけでは世界の経済・金融問題に対処できず、新興国を含む20カ国・地域(G20)が国際政策協調の場として重要な役割を果たすようになっている。国際金融システムも米国とG7を中心とした体制から、新興国も一定の役割を果たす多極化の方向に向かいつつある。AIIBの設立は、こうした変化を象徴する出来事だ。

 中国側の事情として4点挙げられる。第1に、アジアには膨大なインフラ需要があるが、世銀やADBなどの既存機関だけではアジアのインフラ需要を満たせない。AIIBが新たに加わることで、より多くのインフラ資金を途上国の視点から投入できる。

 第2に、中国をはじめ新興国は経済力向上にもかかわらず、既存の国際金融機関で十分な発言権を与えられていない。既存の機関は欧米主導の枠組みであり、新興国がより多くの資本を拠出して発言力を高めようとしても阻まれる。10年に新興国の発言権強化で合意したIMF改革は、拒否権を持つ米議会が承認せず、いまだに実現していない。

 第3に、世界第2の経済大国になった中国は、自ら得意とするインフラ開発を通じてアジアを主導したいという欲求がある。欧米諸国はIMFや世銀を運営し、日本はADBを運営しているが、中国は経済力・資金力があるにもかかわらず、自らが運営する国際金融機関を持っていない。

 第4に、国内の成長力が鈍化する中国は、インフラビジネスや過剰生産物の輸出の拡大、資源の確保などアジア全域に活路を求めている。中国の対外的な経済環境を強化するために、2国間協力に加えて、多国間機関を位置づけようとしている。AIIBは中国の「一帯一路」政策、つまり陸と海の2つの「シルクロード」構想にも関わりうる。

 要するにAIIBは、中国が自らの増大する経済力に見合う形で、かつ多国間の枠組みで、アジアの経済発展を主導しようとする試みである。

 日米をはじめとする国際社会は中国の台頭を直視して、その経済力と意欲を積極的に活用すべきだ。AIIBは建設的にみれば、中国が多国間の枠組みで国際公共財を提供することであり、国際的な標準・ルールに従った責任ある行動をとるよう促すことで、その影響力を国際的な秩序に取り込むことが望ましい。

 日米は「AIIBは公正なガバナンス(統治)の確保、環境や社会に対する影響への配慮、債務の持続可能性などの面で国際的に確立したスタンダード(標準)に基づくことが重要だ」との認識で一致している。この考え方こそ、AIIBを既存の国際金融秩序の中に取り込んでいく方策だ。日米は積極的に関わって、ガバナンスや融資政策・基準が国際的な標準に近づくようにしていく必要がある。

 第1に、ガバナンスについては、基本的に議決権を決める現状の出資比率を推計すると、中国が約3分の1と圧倒的に大きく、対抗できる国はない(表参照)。他の主要な国際金融機関の出資比率と比べ極めて高い。IMFにおける米国の出資比率は17%、ADBにおける日米の出資比率はそれぞれ16%程度だ。

 だが日本が参加すれば出資のバランスは大きく変わる。日本の出資比率は12%となり中国は28%にまで下がる。日本単独では中国と対抗できないが、欧州と組めば33%になり中国を上回る。日欧連携を通じ中国の行動をチェックできることになる。より公正なガバナンスを可能にするには日本の参加が欠かせない。

 また、世銀やADBは融資案件を本部常設の理事会で決めるが、AIIBは理事会を置いても本部に常設とせず、総裁の権限を強める方向だ。融資案件や基準が中国の意向に左右される懸念が残る。意思決定の透明性を高め、業務や経営陣を効果的に監視するには、やはり常設の理事会を本部に設けることが重要だ。

 第2に、インフラ事業に関わる環境基準や社会基準は明確でなく、融資を受ける途上国で乱開発により環境悪化が深刻化したり、開発地域の住民の人権が脅かされたりする懸念がある。一方で、途上国の間には、世銀やADBの融資基準は厳しすぎるという声があるのも事実だ。

 確かに途上国が世銀やADBの厳格な環境・社会基準をクリアすることは、制度・能力・資金の制約から難しい場合がある。AIIBがこうしたギャップを埋めることに意味はあるが、その際、当該国の制度・能力を引き上げてより高い基準をクリアできるようにするための技術支援と組み合わせるべきだ。

 既存の国際金融機関との協力を促すことも有効だ。世銀やADBのインフラ案件にAIIBが資金を出す協調融資を促すことで、AIIBの基準が国際的な標準に近づく。

 第3に、途上国が自らの債務負担能力を超えて融資を受けると、世銀やADBなど他の金融機関への返済が滞りかねない。債務の持続可能性についてはIMFが各国を横断的に分析している。AIIBはそうした分析を利用して、持続可能な範囲でインフラ事業を進めるべきだろう。

 日本は今後どう対応すべきか。米国への配慮から参加を見送ったが、いずれは参加すべきだろう。日本の参加によりガバナンスが強化され、多くの懸念が解消されうるからだ。そして参加するのであれば、早い方が望ましい。

 米国の場合、対中強硬派の多い議会が出資を認める可能性は低く、参加は当面難しい。しかし、地域の経済大国である日本がアジアのインフラ整備のルールづくりに積極的に関与し、経済発展に貢献することは当然の責務だろう。かつAIIBに入ることで、日本の企業がアジアのインフラ事業から締め出されないようにすることもできる。

 東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国は、日本の参加で中国の影響力を相対化し、均衡を図っていくことを望んでいる。日本が不在のAIIBができれば、日本の存在感は弱まろう。日本はADBとAIIBに参加することで、アジアの経済秩序づくりに関わり、多国間の枠組みの中で中国にルールに沿った行動を促す役割を果たすべきだ。

 同時に既存の国際機関は、新興国の経済力の拡大に応じて発言権を調整しないと正当性を問われることになる。米国はIMF改革の国内承認手続きを早く進めるべきだ。ADBも出資比率や議決権の見直しを始めるべきだろう。このことが、米国とG7中心の一極構造から多極化に向かう国際金融システムの安定化につながることになる。

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