経済教室 インド・モディ改革の行方 投資誘致へ環境整備 課題 浦田秀次郎 早稲田大学教授 大西敢二郎 財務総合政策研究所国際交流課課長補佐 2015/07/20 本日の日本経済新聞より

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 インドは12億人を超える人口を擁し、65歳以上の高齢化率も5%台と低い。2028年には中国を抜き世界一の人口規模になると予測される。

 この10年間のインド経済はIT・サービス業がけん引役となり、金融危機直前の05~07年度(年度は4月から翌年3月まで)にかけて実質国内総生産(GDP)伸び率が3年連続で9%台を維持するなど高成長を続けてきた(図1参照)。危機直後の09~10年度も、政府による景気刺激策やインド準備銀行の政策金利引き下げなどの効果もあり、8%以上の高成長を実現した。その後、消費や投資などが伸び悩み、成長の勢いに陰りがみられたが、14年度の成長率は7%台まで回復した。

 一方、マクロ経済上の課題として、経常収支赤字と財政赤字の「双子の赤字」を抱えている。IT・サービス輸出などでサービス収支は黒字だが、貿易収支の赤字がそれを上回る状態が続く。インド商工省の統計(14年度)によると、輸出先上位は米国、アラブ首長国連邦(UAE)、香港、中国である。輸入元上位は中国、サウジアラビア、UAE、スイスである。良くも悪くも双方に名を連ねる中国やUAEの経済情勢がインド経済に与える影響は大きい。

 インドの主な輸出品目は一般機械・輸送機器等、宝石・宝飾品、石油製品であり、輸入品目は原油・石油製品、電子機器、金である。原油・石油製品が輸出入の上位にあることから、産油国との貿易関係が深く、国際的な原油価格の動向も重要な影響を与える要因であるといえる。

 中央政府の財政赤字は継続しており、インド財務省の統計では、金融危機後の景気刺激策により一時はGDP比6%台に拡大した。12~13年度をみると、足元では若干縮小しているが、GDP比4~5%台の水準にあり、政府が中期財政計画で掲げる17年度末に財政赤字をGDP比3%とする水準には至っていない。インフラ・ボトルネックの解消のための公共投資を維持する必要もあり、今後も難しいかじ取りを迫られるだろう。

 14年5月の総選挙で政権交代を果たしたモディ首相は、貿易収支の改善に眼目を置き、インドを世界の製造・輸出拠点へ発展させる「メーク・イン・インディア」キャンペーンを打ち出している。

 インドでは1947年の独立以降、製造・販売を国内で完結させ、輸入依存度を軽減することに主眼を置いた、輸入代替政策による製造業振興がとられていた。しかし、この政策は失敗し、GDPの産業別構成比率において、製造業は17%台と相対的に低い水準にとどまっている。他の新興国の製造業が国際的なサプライチェーン(供給網)に組み込まれて発展する中で、インドは取り残されてきた。

 モディ首相は「メーク・イン・インディア」で、製造業振興のため、投資を呼び込む環境整備を積極的に進めている。製造業について、中期的に年12~14%の成長率を実現し、GDP比率を2022年までに25%以上へ引き上げるとともに、1億人の追加雇用創出を目指す。その過程で、製造技術の向上を図り、国際競争力を高めることを狙う。

 強力な指導力が期待されるモディ首相だが、国会や州議会での与野党の「ねじれ」状態は、政策を推進するうえでの難しい課題である。

 モディ首相は昨年の冬季国会において上院で否決された外資規制緩和に関する保険法改正案などについて、「大統領令」の公布を閣議承認した。海外投資家からは、投資環境改善に向けた首相の決意を示したとの評価を得る一方で、国内では議会政治を無視するものだとの声もあった。今後は海外へのアピールと国内のかじ取りのバランスに配慮して政策を進める必要がある。

 政府は、中央・州政府間の協力関係を強化する取り組み(協力的連邦制)とともに、各州間の競争を促すことで改革推進を目指している。インドを代表する研究機関のインド応用経済研究所は、各州の競争力指数を作成している。法律や規制、ビジネスのやりやすさなどを基に、競争力の数値化に取り組んでいる。こうした指数の公表は各州間の健全な競争を促すだろう。

 こうした取り組みに国内外から期待が寄せられるが、日本をはじめ各国の対インド直接投資は伸び悩んでいる(図2参照)。世界銀行の「ビジネス環境の現状2015」(14年10月)の総合ランキングでは、インドは189カ国中142位。国際協力銀行の「わが国製造業企業の海外事業展開に関する調査報告」(14年11月)によれば、日系企業はインド進出の課題として「インフラが未整備」「法制の運用が不透明」「徴税システムが複雑」などを挙げている。

 インフラ不足は新興国におけるハード面の共通課題として認識されるが、インドではこれに加えて、政府による過剰な規制などソフト面についても障壁が散見される。

 例えば、日本の約8.7倍の広大な国土をもちながら、「土地不足」が発展の足かせといわれる。広さという要因ではなく、土地権利書の不在や、複数人による重複的な土地所有がみられるといった、土地管理に関するシステムが十分に機能していないことに起因した課題といえる。

 インフラ整備に必要となる土地収用の問題もある。14年1月、1894年の制定以来、約120年ぶりに新・土地収用法が施行された。新法は、地権者や住民に対し手厚い権利保護を与える内容となっており、社会問題化していた地権者・住民による反対運動の回避が期待できる。半面、事業者にとっては時間的・金銭的にも収用コストが上がり、ビジネス展開の障害になるとの声も出ている。

 税制についての課題も指摘されている。典型的な事例として、2012年の「ボーダフォン事件」がある。企業が海外投資・買収をする際の合法的な節税計画(タックス・プランニング)が、国際的に広く適用されてきたにもかかわらず、インド政府によって覆されたケースである。

 また15年2月、ジャイトリー財務相は、同年4月に予定していた一般的租税回避否認規定(GAAR)の適用を2年延期し、17年4月からとする案を公表した。GAARは、税法上で明確に禁止されていないスキーム(枠組み)に対しても、明らかな租税回避の意図が見受けられる場合、当局の判断で課税に踏み込めるというものだ。今後、政府の運用姿勢が注目される。

 このようにインドでは「課税方針が複雑で将来の予見が困難」といった税務上のリスクがあり、企業は投資形態の見直しや、より慎重な投資の検討を余儀なくされている。

 課題は少なくないが、人口ボーナス期にあるインドは巨大市場として、高い期待や関心を集めている。前述の国際協力銀行の調査では、今後10年程度の長期的な有望事業展開国として、インドは10年以降1位を獲得している。今後3年程度の中期展望でも、14年の調査で初めて1位を獲得した。課題の克服にあたっては、モディ首相の強い指導力による国内問題への適切な対応と日本など海外からの経済協力の活用が有効であろう。

 2年目を迎えたモディ政権は、主要な改革の実現度合いが判断される段階に入った。インドのGDP統計は1月に基準改定したばかりで、改定直後となる今回の公表値は幅を持ってみる必要があるが、高成長を維持できれば改革推進に追い風が吹くであろう。

ポイント
○経常収支と財政収支の「双子の赤字」続く
○世界の製造・輸出拠点めざす計画打ち出す
○将来の課税方針の予見しづらさが障害に

 うらた・しゅうじろう 50年生まれ。スタンフォード大博士。専門は国際経済

 おおにし・かんじろう 75年生まれ。ブランダイス大修士



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