経済教室 長期化する原油安(中)米シェール、増産基調不変 供給過剰解消に時間 G・プリディ ユーラシア・グループ資源エネルギー部ディレクター 2015/10/21 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の経済教室面にある「経済教室 長期化する原油安(中)米シェール、増産基調不変 供給過剰解消に時間 G・プリディ ユーラシア・グループ資源エネルギー部ディレクター」です。





 昨年半ば以降、世界の石油市場は周期的な地殻変動に見舞われている。産油国カルテルの振る舞いから原油価格の均衡水準まで、あらゆる従来の通説が覆りつつある。

 現時点では原油はなお大幅な供給過剰だ。上流部門(探鉱・開発・生産)への投資縮小と需要拡大の両面から均衡に向かっているが、そのペースは極めて遅い。本稿では、なぜこうした状況に至ったのか、混乱が過ぎた後の石油市場はどうなるのか、過去の経緯を踏まえつつ分析する。

 原油価格は2011年から14年前半にかけて、1バレル100~110ドルで安定していたが、下落の要因は相当前から形成されていた。

 供給サイドでは、掘削技術の進化により古い油田の回収率向上や新油田の開発が可能になるなど、供給源が増えた。供給増の最大の原因となったのは、米国のシェールオイルだ。従来の知識からすれば生産量の伸びは毎年鈍化するはずだったが、実際にはハイペースで掘削技術の改善が進み、伸びは毎年加速している。

 需要サイドでは、新興国の成長率が鈍化しているうえ、先進国・途上国ともに消費を抑制する公共政策(自動車の燃費基準の厳格化、消費補助金の削減など)をとることから、需要が伸び悩んでいる。

 供給能力の伸びが需要の伸びを上回る場合、通常ならば市場による価格調整か、石油輸出国機構(OPEC)またはサウジアラビアなど中核国が減産に踏み切るはずだ。

 しかし実際には、政治的な要因により相当量の原油が市場から一時的に姿を消したため、価格調整も減産もする必要はなかった。11年にはリビアの内戦のため需給が逼迫。カダフィ政権崩壊後に生産量が増え始めると、今度はイランの核開発を巡り米国が経済制裁を発動したため、リビアの増産効果は打ち消された。

 13年にはリビアで反政府勢力が影響力拡大を狙って主要輸出港を掌握したため、原油輸出量が急減した。そのうえシリア、イエメン、スーダンでも内戦により生産量が縮小し、過度の供給増を打ち消す結果となった。

 だが問題は、最後に勝つのはどちらかということだ。14年に米国のシェールオイル増産が加速する一方で、どの国でも供給縮小が起きなかったとき、市場は転換点を迎えた。14年6月に過激派組織「イスラム国」(IS)がイラク第2の都市モスルを制圧したとき、ブレント原油価格が115ドルを上回る高値をつけたが、産油量にほとんど影響がないことが判明すると下落に転じたのは偶然ではない。

 サウジは一部のOPEC加盟国の期待に反して市場への安価な原油の流入を放置し、価格維持のための減産はしないとの決断を下した。それは、米国の加速的な増産に永久に対抗することは不可能であり、減産による市場シェアの喪失はいずれ耐えられなくなると判断したからだ。石油収入減による巨額の財政赤字を覚悟した対応といえる。

 とはいえそこには、価格下落を受けて、開発に要する時間が短く生産が弾力的な米国のシェールオイル供給は急速に縮小する一方、石油需要は急増するだろうとの読みがあった。この読みの一部は当たったが、14年10月以降、陸上のリグ(掘削装置)の半分以上が稼働を停止しているにもかかわらず、米国のシェールオイル生産は堅調である。

 価格下落ショックから、米国では生産性向上により損益分岐点が押し下げられるとともに、不採算油田の稼働停止と回収率の高い油田へのリグの集中が進んだ。この結果、今年春から夏にかけてブレント原油価格が60ドル台半ばまで戻したときには、米国の稼働油井数は一時的に増加に転じている。現在の稼働数は再び減っているが、仮に米国の減産が大幅であっても、それだけでは需給均衡は望めない。

 米国での増産ペースが予想を上回ったことから、産油量は今年4月に日量960万バレルと高水準に達した。米エネルギー省は、16年第3四半期には860万バレル程度にまで減少し、増加に転じるのはそれ以降と予想する。それでも15~16年の1年間の減少は、40万バレル程度にとどまる見通しだ。

 開発に要する時間が長く高コストの供給源(超深海油田、オイルサンドなど)への投資削減も、いずれは需給均衡に寄与しよう。だが今まさに市場価格に下押し圧力をかけようとしている政治リスクがある。16年第2四半期に、対イラン経済制裁解除という重大な事態が迫っているのだ。

 核協議の当初の合意が実現すれば、ただちに日量50万バレルが市場に流れ込み、供給過剰に拍車をかけることになる。イランの油田保守作業の再開に伴い、16年後半まで流入量は徐々に増えるだろう。その結果、原油はだぶつき、世界的に16年末まで在庫は取り崩されないはずだ。

 17年に入ると、需要の持ち直しとOPEC非加盟国からの供給減により、洪水のような原油の流入は止まると見込まれる。ただし短期的には、重大な下振れリスクもある。市場の均衡回復の過程でマクロ経済ショックに見舞われれば、原油価格は一段と下落しかねない。ただしその可能性はさほど大きくないだろう。

 米国のシェールオイル生産が再び増加に転じることは確実と見込まれる。コスト削減効果により、米国の多くのシェールオイル生産コストは、高コストの超深海油田やオイルサンドを下回っている。需要が拡大すれば後者への投資が復活するとしても、従来の予想を下回る水準にとどまり、収益性も以前より低いだろう。この状況では、北極圏などコストの高い油田はおそらく投資対象にはなるまい。

 OPECは今後も会合を開くだろうが、全体的にも中核国も、今後数年間は積極的な生産調整を控えるだろう。イランとイラクは自国の埋蔵量からして割り当てがもっと多くて当然だと考えているが、サウジには要求に応じる意向はない。また、OPEC加盟国の多くが財政赤字を回避できる水準まで価格を押し上げたら、米国の生産が急増してシェアを失うことは確実だとの判断も働いている。

 こうした状況の背景には市場構造の問題もある。サウジを中心に生産余力はいくらかあるものの、過去の水準と比べると極めて乏しい。従って、現時点では価格が低く供給は潤沢でも、有事の際の市場の混乱に対処する余地は限られている。万一戦争や政権崩壊といった事態に立ち至れば、価格急騰の可能性は否定できない。この場合、供給サイドで対応できるのは中東の生産余力の活用ではなく、米国の増産ということになろう。

 このことから、戦略的備蓄も重要性を増してくる。供給過剰が続く中で、米議会では最近一部の議員が早くもこれを問題にしている。

 高値時代に築いた資産を取り崩してきた産油国にとって将来の見通しは厳しい。経済危機に直面しているベネズエラなどは別として、大半の産油国は「洪水」を乗り切るだけの財政余力を持ち合わせてはいる。しかし原油価格が長期にわたり70ドル台後半に張り付いた場合には、財政緊縮が必要になるし、地政学的にも重大な影響が出てこよう。

 例えばロシアは、石油収入の減少により軍事費が抑制され、本来よりも地政学的に弱い立場に追い込まれる可能性がある。人口が急増中のサウジも政府支出を切り詰めざるを得なくなれば、長期的な困難に直面することになろう。

ポイント
○サウジはシェア喪失避けるため減産に慎重
○生産性向上で米国産シェールのコスト低下
○少なくとも16年後半までは供給過剰が続く

 Greg Priddy ジョージワシントン大修士。06年から現職



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