習近平の支配 愛国のジレンマ(1) 中朝「血盟」の虚実 「あんなやつに会えるか」 2017/7/4 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の第一面にある「習近平の支配 愛国のジレンマ(1) 中朝「血盟」の虚実「あんなやつに会えるか」」です。





 北朝鮮の対外経済相、金英才(64)は5月15日、中国・天津の「海浜新区」を訪れた。客を厚遇する中国で異例だったのは、天津幹部が誰も金と会わなかったこと。前日早朝、北朝鮮は弾道ミサイルを発射していた。中国の国家主席、習近平(64)肝煎りの国際会議が北京で開幕する5時間前だ。顔に泥を塗られた習の怒りは天津に伝わった。

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国境線を越えて運ばれる物資が北朝鮮を支える(6月上旬、中国吉林省)

 1950年からの朝鮮戦争。多くの犠牲を払い、北朝鮮を支援した中国は、中朝関係について共に血を流し国を守った「血盟関係」と称してきた。ところが朝鮮労働党委員長、金正恩(33)と習の会談の可能性を中国の対朝政策関係者に聞くと、こう吐き捨てる。「あんなやつに会えるか」

 正恩は2013年2月、習が国家主席に就く1カ月前に核実験を強行。訪中の呼びかけを無視し、平壌の中国大使館さえ訪れていない。実態とかけ離れつつ、国家のために血を流す意義をうたい、世界が激変する中で共産党支配の正統性を強化しようと語り継いできた「血盟関係」という愛国の神話が中国を縛る。

北朝鮮利するだけ

 米大統領のドナルド・トランプ(71)が習に北朝鮮への圧力強化を迫った4月。中国共産党系メディアは「北朝鮮が核実験に踏み切れば、石油供給を制限すべきだ」とぶち上げた。だが想定外の事態が起きる。賛同の声だけでなく、「血を流して守った土地を忘れたのか」という批判が広がったのだ。最高指導部を入れ替える5年に1度の党大会を秋に控え、習は党内の分裂を嫌う。5月に入り、党系メディアの北朝鮮批判はぴたりとやんだ。

 「北朝鮮は同胞だ。米国が再び攻撃するなら、真っ先に軍に志願する」。朝鮮戦争に従軍した陳運秋(87)は自宅のベッドの上で拳を振り上げた。「毛沢東以来の『伝統的友好』は簡単に変えられない」(外交筋)。中国が在韓米軍との緩衝地である北朝鮮に対する政策転換に二の足を踏むうち、正恩体制は着々と核・ミサイル開発を進める。

 北朝鮮の核武装は中国にとっても脅威だ。党中枢を知る人物は、習が4月、トランプとの直接会談で語った内容を明かす。「北朝鮮は中国と旧ソ連の対立を利用してきた。中米が協力しなければ、北朝鮮を利するだけだ」。習は最近、指導部に提出された中朝の歴史に関する報告書を基に米中協力を説いたという。

「抗米援朝」消す

 北朝鮮に接する中国吉林省の延吉。「革命烈士陵園」の施設は今年初め、展示内容から「抗米援朝(北朝鮮を助け米国に対抗する)」の文字を消した。「上層部の指示だ」(館関係者)という。習は神話の呪縛から逃れられるか。習の支配の行方だけでなく、アジアや世界の未来も左右する。

 共産主義による統治が揺らぎ、中国共産党は支配の正統性を「愛国」に求める。だが政治があおる愛国は偏狭な民族主義に流れやすく、支配する側さえ揺さぶる。中国を縛る愛国のジレンマを追う。

(敬称略)



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