習近平の支配 独善の罠(2) 中国式統治貫く「ゴルバチョフにならない」 2017/1/10 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の第一面にある「習近平の支配 独善の罠(2) 中国式統治貫く「ゴルバチョフにならない」」です。





 会食は緊張に包まれた。2016年12月2日、次期米大統領のドナルド・トランプ(70)が独立志向の台湾総統、蔡英文(60)と電話した日の夜。ワシントンで一人の中国人男性がまくし立てた。「明白なマイナスのメッセージだ。トランプは代償を払うだろう」

民主主義はリスク

 男性は、中国共産党系メディア「環球時報」の社説を担当したこともある王文(36)。米国の対中政策に40年以上も関わる米国防総省顧問、マイケル・ピルズベリー(71)は青ざめた顔色で、王に切り返した。「予測不能といわれるトランプの行為には意図がある」

 「党の核心」。国家主席の習近平(63)は16年10月、共産党で7人いる最高指導部の中で別格の存在を意味する称号を手にした。米国の民意がトランプをリーダーに押し上げたのと異なり、習は密室の協議で自らを強力な指導者に仕立て上げた。習の目には「西側の民主主義」は体制を揺るがすリスクとしか映らない。

 「一体、どうなっているんだ」。「核心」となってから1カ月余り後、習はいら立ちを募らせていた。

 中国国内の学者らを集めて情報分析させた米大統領選は、予想に反してトランプが勝利。出方を探るため情報収集を急げと指示したところ、トランプは台湾寄りの姿勢を鮮明にした。米国の協力者の一部と連絡が取れなくなる不始末も重なり、習の怒りは増した。

 ブレーンの数を絞った前国家主席の胡錦濤(74)と異なり、習は幅広いチャネルで情報を集めるのを好む。ただ、指導部に近い学者はこう話す。「どの報告がどんな判断で採用されるかは誰にも分からない。決めるのは中南海だけだ」

密室協議で決定

 中南海とは、習ら最高指導部が執務室を構える北京中心部の地名だ。歴代の党指導者は故宮の西側に広がるこの地に住み、働いてきた。習は毛沢東と同じく敷地内のプールで泳ぐ。中国の国家戦略は、この中南海の「奥の院」で決まる。

 「いま現実の変化に最も機敏に対応できるのは中国だ。トランプの勝利、英国の欧州連合(EU)離脱、韓国政治の混乱を見ればわかる」。ある党幹部はこう決めつける。民意が国家の行方を決めるのではなく、国家が民意を制御する。密室ですべてを決める中国式統治を貫く思想だ。

 16年12月25日。ゴルバチョフ(85)の主導で政治的な自由や民主を認めた旧ソ連が統制力を失い、崩壊してから25年を迎えた。人民日報は同日付で「国民が多数決で示す願望と、政治エリートの考えは往々にして一致しない」と訴えた。習はかつて党内の会議でこう語ったという。「私はゴルバチョフにはならない」

 国民党との内戦に勝った毛沢東、文化大革命後の鄧小平。かつての党指導者は、強権を振るうことで混乱を乗り切った。習もまた、自身への権力の集中を進める。習の顔色をうかがう党内では、米国が広めた民主主義に代わる価値観として「中国式統治」を世界に広めようと、真顔で語る人々まで出ている。

(敬称略)



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