自由貿易に迫る危機 輸入制限、米にも大きな代償 2018/03/03 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の「自由貿易に迫る危機 輸入制限、米にも大きな代償(中国は報復も)」です。





世界経済をけん引してきた自由貿易体制の支柱の一つ、世界貿易機関(WTO)の秩序に危機が迫ってきた。トランプ米大統領は1日、米国の安全保障を理由に鉄鋼とアルミニウムの関税を引き上げ、異例の輸入制限を課すと明言した。発動すれば36年ぶり。米主導で1995年に設立されたWTO体制に逆行し、欧州や中国は報復措置に動く構えだ。前例のない貿易戦争に発展しかねず、その代償は米国にとっても大きい。

「輸入洗濯機の関税を上げたら、米国内に工場が増えそうだ。鉄鋼とアルミにも輸入関税を課す。君らにもいいことがあるぞ」。トランプ氏は1日、鉄鋼・アルミ業界の首脳に得意げに話しかけた。「鉄鋼に25%、アルミは10%の追加関税を課す。来週に署名する」と断言すると、米株式市場は売り一色となった。

「パンドラの箱が開いた」(日本の通商担当者)。各国が警戒するのは、今回の輸入制限措置が従来とは全く異質な点だ。安全保障が脅かされているとの理由で通商拡大法232条に基づいた大統領権限によって鉄やアルミの輸入を制限する。中国などの不当廉売で国内の供給力が落ち、武器製造や防衛技術の維持が難しくなるとの理屈だ。

中国製などの鉄鋼に課す169件の不当廉売(アンチダンピング)課税は、WTOルールが認めた措置だ。232条は米独自法。歴代政権はWTO体制の国際協調を重んじ36年間も発動を控えてきた。

米国は60年代から80年代半ばにかけて、対日貿易赤字増を理由に繊維、鉄鋼、テレビ、工作機械などで日本に市場開放を迫った。同盟国間の日米貿易摩擦は、米国の高率追加関税や日本の輸出自主規制で解決できた。今回は、関係国が米国との摩擦を回避せずに徹底抗戦する構えで、貿易戦争に発展しかねない。

「極めて遺憾で正当化できない」。欧州連合(EU)のユンケル欧州委員長は1日、米国を批判した。対抗策を数日中に示すとし、WTOへの提訴や緊急輸入制限などの検討に入った。ドイツは2日「関税引き上げを拒否する。我が国のアルミ・鉄鋼の貿易に深刻な影響を与えかねない」(政府広報官)とした。WTOのアゼベド事務局長は2日「明確な懸念」を表明した。

中国外務省の華春瑩報道官は2日の記者会見で「各国が米国のやり方をまねれば、国際貿易秩序に重大な影響を与える」と懸念。中国商務省は2日夜「米国の最終的な措置が中国の利益を損なえば、我々は他の国々と共に自らの利益を守るために適切な措置を取る」との声明を発表した。

中国は米最大の輸出品である大豆を標的に報復するとの観測がある。海外勢で米国債の最大保有国でもある。

トランプ氏は選挙を強く意識して強硬策を貫く。13日にはペンシルベニア州で下院補選がある。2016年の大統領選で競り勝った激戦州で、選挙区は鉄鋼の街ピッツバーグが近い。鉄鋼関係者は1万7千人もの有権者がいるという。11月には大統領の通信簿とされる中間選挙が控える。輸入制限は労働者への大きな手土産となる。

「米国経済、企業、労働者、消費者を傷つけるもので強く反対する」。米大手企業の経営者団体、ビジネス・ラウンドテーブルは1日、輸入制限に反対した。選挙の支持固めを優先し、自由貿易に背を向けるトランプ氏。部品供給網など世界経済が相互依存を強めるなかで代償は大きい。

例えば、自動車メーカーは燃費を高めるため軽くて耐久性の高い鋼板や棒鋼などを使う。高品質の鋼材は代替が難しい。高関税による調達コスト増を車体価格に転嫁せざるを得ず「米国製の車は価格競争力を落とす」(デロイトトーマツコンサルティングの羽生田慶介執行役員)。トヨタ自動車の米国法人は「米国での販売価格を大きく上昇させる可能性がある」とし、消費者に大きな影響を与えるとの見解を示した。

ブッシュ(子)政権の鉄鋼の輸入制限(02年)で、鉄価格は3~4割上がり、20万人の雇用が失われたとも試算される。オバマ前政権はタイヤに緊急輸入制限をかけ、年10億ドルの負担を消費者に強いた。英オックスフォード・エコノミクスは今回の措置が「米経済に高インフレと低成長をもたらす」と警鐘を鳴らす。

米国は関税貿易一般協定(GATT)の発効を主導し、WTO体制の道筋をつくった。トランプ氏は大統領選中から「不公正貿易は全く是正されない」とし、WTOの脱退を繰り返し訴えた。2日にはこうもつぶやいた。「貿易戦争、上等じゃないか。簡単に勝てるぞ」。世界経済は急速に暗雲が垂れ込めてきた。

(ワシントン=河浪武史)



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