英EU離脱 揺れる世界(5) 読めぬ安保への影響 ロシア、米欧の分断狙う 2016/07/30 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の国際1面にある「英EU離脱 揺れる世界(5) 読めぬ安保への影響 ロシア、米欧の分断狙う」です。





 「安全保障で妥協はできない」「同盟諸国の力を弱め、敵を勢いづかせるような賭けをしてはならない」

英下院は潜水艦発射型戦略核ミサイルの更新を可決した(スコットランドの潜水艦基地)=ロイター

 18日、就任後初の議会答弁に立ったメイ首相の力のこもった声が響いた。少なくとも4兆円超の費用が掛かり、世論も割れる潜水艦発射型戦略核ミサイル「トライデント」の更新を下院で可決させ、核戦力を通じて大国としての影響力を維持する決意をにじませた。

 英国民のEU離脱の是非を巡る議論は経済と移民の問題に集中したが、離脱が決まると、安保に目が向き始めた。

 いち早く動いたのは情報機関だった。フランスなど欧州の当局とこれまでと変わらぬ協力を保つことを確認したという。

 「安保分野は離脱の打撃を最小限に抑えられるはずだ」とポーリン・ネビルジョーンズ元英安保・対テロ担当相はいう。

 欧州の安保はEUではなく、米主導の北大西洋条約機構(NATO)が担う。英情報機関は相対でネットワークを世界に張り巡らしており、「欧州は何よりも英国の情報に頼っている」。

 それでも英国のEU離脱が世界に与える中長期的な影響は読み切れない。米国と歩調を合わせる英国は、ロシアの侵攻を受けるウクライナやイランなど中東の問題に欧州を関与させる役目を果たしてきた。

 7月、ワルシャワで開いたNATO首脳会議。ハモンド前英外相によると、議論の大半は英国のEU離脱問題に割かれた。

 米国はその場でダメージコントロールに動いた。オバマ大統領は英独仏伊の首脳を集め、「欧州の安定と健全さを保とう」と訴えた。この枠組みでウクライナの大統領と会談、同国の支援で米欧の結束が揺らがぬことを演出してみせた。

 英王立国際問題研究所のロビン・ニブレット所長は、NATOの政策決定機関である北大西洋理事会(NAC)が英欧や米英欧間の政策調整の場になると指摘する。「英国はNATOや主要7カ国(G7)を影響力のテコにするしかない」

 ロシアはほくそ笑んでいる。「世界はよりよい方向に進んでいる」。英国民投票の結果を受け、米欧の分断に腐心してきたロシア政府内ではこんな言葉が飛び交った。

 EU離脱派のリーダーだったボリス・ジョンソン氏の外相就任が決まると、独仏から批判的な声が上がるのを尻目に、ロシアのラブロフ外相は祝辞を送った。「英ロ関係は新たなページがめくられるのを待っている」(ザハロワ外務省情報局長)

 英王立防衛安全保障研究所のロシア人研究員、イーゴリ・ストゥヤーギン氏が分析する。「ロシアは米欧を結ぶ英国が切り崩し可能な“弱い鎖”になると踏んでいる」

 英国を大国たらしめる情報力と軍事力は経済が悪化すれば予算が目減りし、維持できなくなる。EU離脱交渉が難航し、景気が低迷したとき、英国に食い込む余地ができるとロシアは読む。米大統領選の共和党候補トランプ氏がNATOに冷淡なこともにらんでいる。

 英国ではEU離脱が決まった衝撃を1956年のスエズ動乱と重ねる論調が目立つ。エジプトが国有化を宣言したスエズ運河を取り戻すために出兵した英国は、米国の反対により孤立、ポンドは暴落し、撤退に追い込まれた。

 大英帝国の落日を決定づけたこの事件は、米国と「特別な関係」を再構築し、欧州大陸に接近していく契機ともなった。時計の針を巻き戻すかのようなEUからの離脱。その余波は米欧中心の秩序を揺さぶりかねない。

=この項おわり

 古川英治、岐部秀光、森本学、小滝麻理子、黄田和宏が担当しました。



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