蔡英文の台湾(上) 8年の対中融和 転換 東アジアの安定に影 2016/05/21 本日の日本経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞の国際面にある「蔡英文の台湾(上) 8年の対中融和 転換 東アジアの安定に影」です。





 台湾で20日発足した民主進歩党(民進党)の蔡英文政権は中台関係の「現状維持」を掲げ、不振にあえぐ経済の再生を重視する。対する中国は民進党の理念「台湾独立」を警戒する。過去8年、親中的な国民党政権で続いた台湾海峡の「なぎ」は終わった。台湾の政権交代で生じる中台関係の変化は、東アジア全体に波及する可能性がある。(1面参照)

 ■政権への示威行動 「歩兵、砲兵など10種類の兵を組み合わせ、鉄の拳をつくり上げる」。中国人民解放軍の機関紙・解放軍報は17日、台湾対岸の福建省アモイに本拠を置く「第31集団軍」の上陸演習を写真付きで報じた。中国国防省は「演習に特定の目標はない」というが、蔡政権への示威行動なのは明らかだ。

 「いかなる形の台湾独立の動きも断固阻止する」。習近平国家主席がこう語った3月5日以降、中国はかつて台湾を外交承認していたガンビアと国交を結ぶなど、蔡政権が発足する前から圧力をかけ続けた。

 一方の蔡総統は中国を刺激しないよう配慮をにじませる。20日の就任演説では「両岸(中台)の政権は歴史の重荷を下ろそう」と呼びかけ、対話による現実路線を探る。

 だが、蔡政権誕生の原動力は、8年にわたる馬英九・前政権の対中傾斜を疑問視する有権者の支持だ。自らを中国人ではなく台湾人と疑わない「天然独(生まれながらの独立派)」という若者層の発言力も強まった。

 蔡氏も演説で、中国が求める「一つの中国」の原則には最後まで触れなかった。「大陸(中国)からの圧力に反発し、独立色を帯びた発言や行動が増える恐れがある」(台湾師範大学の范世平教授)というように、中台関係に働く遠心力の源には台湾の民意がある。

 中台関係の変化は、中国が軍事拠点化を進める南シナ海の領有権問題にも影を落とす。

 「太平島は岩ではなく島だ」。台湾の「中華民国国際法学会」は3月、オランダ・ハーグの常設仲裁裁判所に意見書を提出した。太平島は南シナ海の南沙(英語名スプラトリー)諸島にあり、台湾当局が実効支配する。フィリピンが中国を相手に申し立てた国際仲裁手続きに絡み、馬前政権が台湾の立場を主張した。

 仲裁を無視する構えの中国はこれまで、「一つの中国」の原則に基づく馬前政権との蜜月関係から、台湾の動きを黙認してきた。しかし、蔡総統はこれまで「争いは国際法に基づいて処理すべきだ」と述べており、中国に不利な仲裁の受け入れも示唆する。中台の「共同歩調」が崩れ、南シナ海問題がより複雑になる恐れがある。

 ■「現状維持」でも落差 台湾が中国から離れ、米国や日本と安全保障や経済で接近すればいいという単純な未来図も描きにくい。民進党が初めて政権に就いた00~08年、当時の陳水扁総統は中国が「将来の台湾独立につながる」と非難した住民投票を強行。中国との対立が深まり、地域の不安定化を懸念する米国との関係もぎくしゃくした。

 米国防総省は13日、「台湾独立を支持しない」と表明し、蔡氏に地域の緊張を高めないようくぎを刺した。中台関係が冷えれば、日本と台湾の接近に中国が反発し、日中間の摩擦がまたひとつ増える恐れもある。

 たとえ蔡政権が「現状維持」を訴えても、対中融和にまい進した過去8年との落差は大きい。蔡氏が望むと望まないとにかかわらず、それが地域の安定に新たなスキを生む恐れをはらんでいる。



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