複眼 捨てられる不動産どう解決 2017/11/14 本日の日本 経済新聞より

今日の日経注目記事は、日本経済新聞のオピニオン面にある「複眼 捨てられる不動産どう解決 」です。





 持ち主が分からない土地、増え続ける空き家、再開発が思うに任せないまま進行する「都市のスポンジ化」……。かつての「土地神話」が崩れた日本では、有効利用されない資産が経済成長の足かせになりつつある。人口減少時代の「捨てられる不動産」に、我々はどう向き合うべきか。

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■登記の義務化 罰則も 元総務相 増田寛也氏

 誰の所有かわからない土地があり、道路建設などの支障になっていることは、岩手県知事の頃から認識していた。問題が顕在化したのは東日本大震災後だ。高台に移転用の宅地を整備しようと思っても土地所有者がわからず、進まなかった。こんな状態で万一、首都直下型地震が発生したら東京はどうなるのか。そんな問題意識があり、民間有識者で研究会を立ち上げた。

 地籍調査などのデータをもとに地目ごとに分類・推計したところ、所有者が不明な土地は2016年時点で九州の面積を上回る410万ヘクタール程度あるとわかった。40年には約720万ヘクタールと北海道本島に近い面積まで増えかねない。

 人口減少と少子化で使い道のない土地が増えたうえ、地価は上がるという土地神話が崩れたことが問題を深刻にした一因だ。土地を持っていると税金がかかるし、維持管理するように求められるから、相続時に登記しない人が増えた。世代交代する度に相続人が枝分かれし、誰か1人でも行方不明になると、その土地全体が利用できなくなる。

 所有者を把握する手段として不動産登記があるが、民法学者によると、登記は第三者に対して所有権を示す制度で現時点での所有者を表す台帳ではないという。登記簿には2億3千万筆の土地が記載されているそうだが、所有者が死亡している場合がかなりある。自治体が固定資産税を課税する際に使う台帳も、小さな土地は対象にしていない。

 対策としてまず考えられるのは不動産登記を義務化し、罰則も設けることだ。それが難しいなら、フランスのように土地取引をする際に必ず資格者を通す仕組みにすれば、登記が今よりも進む。代わりに登録免許税は下げ、手続きに必要な手数料も安くする。相続放棄された土地を預かる受け皿も考えるべきだろう。

 所有権と切り離して、利用権を設定することも考えられる。農地や山林ではすでにそうした仕組みがあり、宅地にも広げる。後日、所有者が名乗り出た場合は金銭の支払いで解決する。そのためにも新法をつくって、土地所有者には管理する義務があることを明記すべきだろう。義務を果たしていないから、所有権を制限したと整理すればいい。

 利用権を設定できる対象は国や自治体の事業に限定せず、民間の事業にも広げるべきだ。公共性があるかどうかで判断すればいい。首都直下型地震の後に素早い復興に取り組むためにも、あらかじめ要件を広げた方がいい。

 最終的には土地情報を一元化した新たなデジタル台帳を整備すべきではないか。登記簿の情報のほか、不動産鑑定士や司法書士の協力も得て、「地理空間情報」に所有者を書いていく。それをマイナンバー制度とも結びつける。

 空き家では、利用可能な物件は例えばシェアハウスや外国人向けの宿泊施設などに活用する。老朽化が著しく、所有者がわからない物件は土地と一体で考えることになる。

 これから多死社会に入り、相続放棄が増えれば手遅れになる。残された時間はせいぜい十数年。今ならまだ間に合う。

(聞き手は谷隆徳)

 ますだ・ひろや 77年東大法卒。旧建設省を経て95年から岩手県知事を12年務めた。自民党政権で総務相。現在は野村総合研究所顧問のほか、東大客員教授などを務めている。65歳

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■機能集約で地価向上を 三菱地所執行役専務 谷沢淳一氏

 不動産事業で土地の所有者が分からず隣地との境界を画定できない問題は、現実に起きている。現在の案件はたまたま地方が中心だが、今後は東京や大阪などの都市圏でも発生しうる。最近では再開発事業が活発だが、権利変換の際に土地の特定ができないという事態から開発スケジュールが滞るケースもある。

 相続を繰り返したことで所有者が分からない土地はねずみ算的に増えている。最近は先祖伝来の土地という意識も薄くなった。解決策としての登記の義務化は中長期的には必要だと思うが、所有者は資産価値が無い土地に費用をかけてまで登記はしたくない。自治体による地籍調査にしても膨大な労力と費用がかかるため難しい。まずは不明土地をこれ以上増やさないという視点で、できる部分から手をつけることが大事だ。

 仲介手数料の見直しはその一つになる。現在は一定の範囲で決められているが、仲介者は資産価値の低い不動産については動いてくれない。手数料を多くして諸経費に上乗せできるなど、そういう制度変更があればいいと思う。

 また閲覧制限がある固定資産課税台帳について一定のルールに基づき情報開示できる仕組みを考えてはどうか。当社の地方での再開発案件で所有者が分からない雑草が生い茂った土地があり、自治体に台帳を調べてほしいと頼んだが、個人情報の関係で断られたケースもあった。台帳を見ればかなりの確率で所有者が判明する場合がある。管轄権が異なる農地基本台帳などを含めて縦割りをなくし、連携できればかなり解決する。

 不在者財産管理制度でも実際に使えるケースは限られているうえ、いざ制度を利用しても裁判所が入ると半年も時間がかかる場合がある。そんな時間的な問題を解消する取り組みも必要かもしれない。

 民間企業としては市場性がある不動産については様々な面で貢献できる。問題が顕在化している空き家についてもリフォームをすることで、物件そのものだけでなく、空き家がないことで周辺の資産価値を高められる。資産価値の向上につながる住宅や商業施設、病院や大学などを集積したエリアマネジメント、コンパクトシティ化の取り組みについても民間デベロッパーはノウハウを持つ。様々な機能を集約して街のダウンサイジング化を進め、地価を高めれば、結果的に不明土地が増えないということになる。

 不明土地を増やさない取り組みに加え、土地を所有するのではなく利用するという観点も大事だ。民間企業が市場性がないと判断しても、地元の人が使いたがる土地というのは必ずある。イベントを開催する広場として暫定的に活用するなどの使い方もあるかもしれない。地方自治体がNPO法人などを活用しながら利活用を進められればいい。

 米国では公共団体が使われていない土地の利用権を付与する「ランドバンク」という制度がある。管理放棄された土地を公共団体が希望者に売却したり、リースしたりする仕組みだ。日本では難しい面もあるだろうが、一考する価値はあるかと思う。

(聞き手は加藤宏一)

 たにさわ・じゅんいち 81年東京都立大(現首都大学東京)経卒、三菱地所入社。ビルアセット開発部長や経営企画部長、常務執行役員などを経て17年4月から現職。59歳

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■人口減の直視 なお不足日本大学教授 中川雅之氏

 日本の都市政策や住宅政策は大きな転換点にある。日本の空き家率は13.5%にのぼるという調査が2014年に発表された。それ以来、まず空き家問題がクローズアップされるようになってきた。

 空き家が増えると、草木が繁茂して景観を損なったり、治安が悪くなったりするという直接的な問題が出てくる。だが、それ以上に「人口減少社会の中で都市がうまく縮小できていないのではないか」という問題意識で注目されるようになっていると思う。

 日本の新築住宅着工数は1980年代には年間170万戸にのぼった。今は年間90万戸とほぼ半分になったが、人口1万人当たりの住宅数でみると日本は欧米よりはるかに多い。人が減っているのに、住宅が過剰に供給され空き家を発生させている。日本の不動産市場が、縮小社会に対応できていないことの表れだ。

 都市の縮小に向かい合うのは日本が初めてではない。旧東ドイツはベルリンの壁が崩壊した後、急激な人口流出に見舞われた。空き家が大量に発生したことを受けて、街の縮小政策を進めた。自治体と開発事業者、市民らが協定を結び、家を計画的に壊したり、空き地を緑地やコミュニティー拠点に活用したりした。

 日本もそんな縮小政策が必要になってきたが、成果を上げられていないのが現状だ。

 危険な空き家を自治体が取り壊せるとか、将来の人口減を見据えて病院や学校などの公共施設を再配置するといった政策はそれなりに出そろいつつある。だが、分権化の流れもあり、すべてのトリガー(引き金)をひくのは市町村だ。彼らがそれを使いかねていることに問題がある。

 例えば、コンパクトシティーを目指すための「立地適正化計画」。「ここは住宅地として位置づけるけれども、その他のところは移転してください」とお願いするような仕組みだ。しかし住民や開発事業者が反発すれば、市町村側はちゅうちょしてしまう。住民との距離が近い市町村には痛みを伴う改革は難しい。

 今ある様々な政策メニューを、いつどうやってどの自治体が使うべきなのか。国や都道府県など市町村より上のレベルで、人口推計などをもとに客観的な基準を定めるほうがいいのではないだろうか。

 もう一つ重要なのは、国も自治体も、これからの人口減少に正面から向き合えていないという事実だ。

 政府が掲げる「地方創生」は「地方の消滅を防げ」という掛け声から始まった。地域を活性化しなければいけないという問題意識はわかるが、地域活性化という一発逆転ホームランを打てれば、人口減少に向かい合わなくていいとの意識が潜んでいると思う。自治体ごとの地方創生戦略をみても、高めの出生率を想定しているところが多い。

 だが今後すべての地域で人口が増えていく状態は考えにくい。それなのに自分の街の人口が減ることに、市町村はいまひとつ向き合えていない。国は地方創生という名の下にバラマキを続けている。こんな意識では都市を縮めることはとうていできない。

(聞き手は福山絵里子)

 なかがわ・まさゆき 京大経卒。旧建設省、国交省まちづくり推進課都市開発融資推進官などを経て04年から現職。空き家問題や都市政策が専門で国の審議会委員も歴任する。56歳

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〈アンカー〉今こそ現代版「検地」の時

 全国の住宅の8戸に1戸は空き家で、空き地は香川県の面積の8割に相当する。九州の広さに相当する土地は所有者すらわからない。日本の様々な制度や政策がいい加減だったとしか言いようがない。

 地方は中心部すら駐車場だらけなのに郊外開発が止まらない。都市部でも老朽化した家屋を放置し、周辺農地に住宅が建っている。海外では土地取引要件に登記を義務付けている国が少なくないが、日本の登記制度は穴だらけだ。

 日本のように国土の半分程度しか地籍調査が終わっていない国は先進国では少数派。谷沢氏や中川氏が指摘する街の「縮小政策」を進めるためにも、増田氏が言う土地情報を一元化したデジタル台帳が必要だ。できない理由を並べるのはやめ、戦国時代の豊臣秀吉ではないが、現代版の「検地」に今すぐ取り組むべきだ。

(編集委員 谷隆徳)



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